昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

読書酔い必至 『夜は終わらない』

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星野智幸

女結婚詐欺師玲緒奈(れおな)。
類い希なる美貌とあらゆる手練手管を駆使し、今宵も全財産を吐き出させた男を葬り去る。
ターゲットを殺す直前、彼女は奇妙な提案をするのだった。
「ね?私が夢中になれるようなお話をしてよ」
過去に体験した話でもいい、作り話でもかまない。
被害者の男に、その場でストーリーを語らせるのである。
もし面白ければ助けてやると。
助かりたい一心で必死に話を紡ぐ男たち。
勝ち誇ったように加虐的な笑みを浮かべる玲緒奈。
これから果てしなく続く、物語の迷宮へ連れ去られるとも知らずに、、、

読書酔い必至ッ
気持ち悪いったらありゃしない。
話のマトリョーシカですよ。話の中に話、そのまた中に話、、、
話の中の登場人物が、また違う話を始めるときのこのゾワゾワ感。
「桃太郎」話しててさ、桃が流れてきて、桃太郎が生まれて、じゃあ鬼退治行ってきますつって、犬と会うじゃん。
で、犬が「いやぁ~桃太郎さんと会うまでいろいろと大変でしたよ」つって自分の話始めちゃったらどうする?
猿は?雉は?鬼退治は?そんなの全部ほったらかして、桃太郎と会うまでの犬の冒険がどんだけ凄かったかって話になるっつーね。解ります?この気持ち悪さ。
恐怖でも嫌悪でもない、、、何だ?この感覚は?
不安?不安が一番近いニュアンスかね。
兎に角こんな感じで、どんどん奥の深い層へと話が転げ落ちて行く様を読者は、主人公玲緒奈と完全に一体化しつつ呆然と読み進めていくしかないという有様。

初めは、女詐欺師のクライムサスペンス風味。
捜査の網を拡げる警察の目をかいくぐりつつ、猜疑心が強いターゲットを如何に籠絡していくかという知能犯振りも描写されいて、これはこれで充分面白い。
このまま逃亡生活を続けながら、次から次へと男たちに話を聴いていく展開かと当たりを付けたところでいきなり大ドンデン。

▼△▼注意 ちょっとネタバレします△▼△

目次、目次がほぼ全てを物語ってます。
一人目はまあね、この作品のシステムを説明するためだけのキャラっつーか。
話をして(俺は普通に興味深かったが)当然の如く玲緒奈につまらないと不合格判定を受け、殺されると。
ハイッここまで、普通の小説なのはここまでです。読者の皆様はシートベルトを締め、対ショック態勢をとって下さい。
二人目から有無を言わさず物語の迷宮へ拉致られます。

気付いたらもうダンジョンの奥の奥深く。
今何処で何の話を聴いてるのかも曖昧な、終わりも見えず、目指すべき方向も定かならず。
そもそも作り話だから、話の整合性なんかお構いなし。只ひたすらに無造作に深淵の底に話が吸い込まれていく。
果てしなく続く物語、永遠とは果たして幸せなのだろうか。
ゴールが何処かも判らずひたすら走らされるストレスと不安感。
そしてそれを越えたところにある、ランナーズハイともいえる物語との一体感。
最早、面白い/面白くない、好き/嫌いを超越した新しい価値観をもってしか今作を評価する術無しッ!
正直面白いか?と問われれば微妙、好きか?問われれば否かなというぐらいの案配。
プラス、終始読書酔いで気持ち悪いし。
勿論あんま面白くないし好きじゃないでは流せない、誰もが感じるであろう“何か”があるのは保障します。
俺的には「驚き」かねぇ、今まで読んだことないかもッ!←今回は、この感想を最大限評価しました。
そして「驚き」といえば、最後にもう一発。
迎えた結末、物語の底の底。
当然このまま全ての伏線や今までの物語の流れを全部放棄して、ゆっくりと感想の泥の中に埋まっていって終わりだろうなと、ある意味スッキリとした諦観を抱きつつページを捲っていくと、、、

※警報 豪快にネタバレします※

 何とッ!!
このダンジョンの奥深く迷宮の深淵からッ 最後地上に戻るかんねッ!!
マ・ジ・で、これにはビックリ。絶対ブン投げて終わると思ったのに。
まさか星野先生、「リレミト」を詠唱出来るとはw
恐れ入りました、天晴れッッ

まさに奇書中の奇書也。

ryodanchoo.hatenablog.com

ryodanchoo.hatenablog.comと合わせ、本ブログ「三大奇書」とさせていただきます。
↑↑内容は全く違うのに思い至ることは同じなのか、似た様なフレーズ使い回してますね、恥ずかし。

ブッ飛び具合は前二冊に及ばないまでも、あの深淵から戻って来た戦果で、星一個分の価値は当然といったところ。
ネタバレ絶対厳禁の禁忌を破ってまでレビューした今作、是非ありきたりの作品は読み飽きたという読書好きの方にお薦めしたい。

 

最高の BAD TRIP
★★★★☆