昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

書きも書いたり四千五百文字『百年法』

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山田宗樹

 

生存制限法 (通称:百年法)

不老化処置を受けた国民は
処置後百年を以て
生存権をはじめとする基本的人権
これを全て放棄しなければならない

人類積年の宿願、不老不死が実現した近未来。
人が“死なない”、“老いない”ことによって起きる様々な社会問題を描く。

バリバリ面白えぇぇッ!!
上下巻合わせ八百項超の大作もマッハで読了。
見て見て、感想メモ何と三枚ッ! f:id:ryodanchoo:20200507210844j:plain泉のように感想が湧いてきて、上手く纏められるか心配ですが、兎に角書きたいことてんこ盛りなのです。

生とは何か? 死とは何か? 本当の幸せとは?
人生の根源を問う深遠なテーマながら、少しも堅苦しくなくエンタメ全開ッ
只々死期が迫った老人が死にたくないと、生にしがみつくばかりのしみったれた話かと思ったらとんでもない。
生と死という哲学的なメインに、歴史小説も真っ青の権力闘争と、SF小説ばりのリアルな未来描写、百年法施行下の様々な人間模様、そして謎のテロリストを追うクライムサスペンスまでブッ込んだまさに、超豪華フルコース的娯楽巨編ッッ

こんだけ様々な要素がありゃ、読者の誰もがどれかには引っ掛かんでしょ。
それぞれのパートが面白さを競い合いながら且つ、一つの作品として綺麗に纏まってます。
ちなみに俺一番のお気に入りは権力闘争パート。
上巻は百年法施行に邁進する内務官僚「遊佐章仁」と、死の恐怖に取り付かれ絶対に百年法施行を阻止しようとする抵抗勢力との争い。
下巻では日本共和国首相に就任した遊佐と、彼自身が作り上げた独裁者、日本共和国大統領「牛島諒一」との果てしなき闘い。
くぅ~~堪らん。このパートだけでもメチャメチャ読み応えあります。

と、感想ばっか先走ってますが、作品の概要説明しないと何言ってっか解りませんよね。
そもそも何で百年法なのか?
人類長年の夢である不老不死が叶い、皆幸せに暮らしているかというと然に非ず。
何故ならば、不老不死により人材の新陳代謝が滞り、日本社会全体が壊死しつつあるから。
肉体容姿は若くても感性は老人、一度要職に就いた人間が未来永劫居座り続ける弊害。
将来が固定された重々しい閉塞感に、当然若い世代から不満は募ってくる。
不老不死化手術(作品内呼称“HAVI”)を導入した各国は、同時に生存制限法も施行し、人材のバランスを保っていた。
生存制限年を越えた国民を安楽死させる一方、オリンピックの金メダリストやノーベル賞級の科学者など、特に国家が認めた優秀な人材には延命措置も認められるという、あからさまな命の選別も行われるエグさ。
世界各国が平然と姥捨山を実行し国際競争力を高める中、例によって例の如く先送りの事なかれ主義で無為に国力を衰退させ続ける日本、この状況下においても政治家たちは重大な決断から逃げ続けていた、、、ってな状況。

早急に百年法を制定しなければ日本に未来はない。
国を憂う遊佐等内務官僚vs.絶対に死にたくない日本国民(HAVI後約百年の人たち)
当然政治家(HAVI後約百年の者多数)も大反対。
そりゃそーだ、御国の為に死んでくれとは時代錯誤も甚だしい。
ところがどっこいッ
遊佐の上司に特攻隊の生き残りがいて、俺が先陣切って国民に範を示そうってなことに。
???
ハイッ、ここでまた説明しなければなりませんね。
今作、日本“共和国”のお話であって、日本国の未来ではないんですね。
そして、何とッ!この作品の時間軸では、戦後直ぐの1948年にアメリカによって不老不死化手術“HAVI”が実用化されているというね、丁度百年後の2048年が舞台。
1948年に不老不死って、いくら何でもどんな科学技術力だよッ!とツッコミたくなるのは重々承知ですが、他は作品通して説得力バッチリなんで安心して読み進めていただきたい。

そうなんです、皆死にたくないんです。
しかし世代交代しなければ、国が保たない。
これをどう国民に納得させるか、来たるべき破滅を避けるために、今、背負わなければならない負荷を如何に受け入れるか。
まともな対案も出せずにひたすら反対と喚くだけの政治家、目先の利益しか考えられない一般大衆、不満と不安を煽り立てるマスコミ。
死ぬか/生きるか? これほど切羽詰まってないにせよ、今の日本も状況は似てますよね。
山田先生も余程、昨今の政治状況に一家言あるんでしょう。
イライラ感が行間から滲み出てますw

作中、窮余の一策として独裁制がクローズアップされるんですが然もありなん。
人類が数千年かけて辿り着いた、現時点で理想の政体である民主主義ですが、機能不全に陥りつつあるというか、、、
やべぇ、何か危険思想の持ち主みたいじゃん。
違うんです、民主主義を否定してるんじゃなくて、民主主義の弱点を改善したいだけなんです。
今作でも、大きな危機を前に、民主主義が対応を誤る様が痛烈な皮肉を含んで描かれており、それ見たことかと大いに溜飲を下げるというか痛快というか。
ネタバレになるんで詳しく書けませんが、↑このシーンの緊迫感たるや、そりゃもう、心臓バクバクもんです。
政治に関心のない層が政策内容を吟味もせずに、その時の流れと雰囲気だけで投じた票が、間接的とはいえ国家の意思決定に関与出来る議会制民主主義というシステムの非合理性。
時間と金ばかりかかって何も決められないのなら、高潔且つ能力ある人間による独裁の方が遙かに効率的なのは自明の理。

しかしそこは山田先生、大衆の愚かさをこれでもかと描いたあとは、暴走する権力の恐ろしさもキッチリかましてきます。
いいですか皆さん、ここいら辺のバランス感覚ですよ、ね、最近はホラうるせぇから(哀)
余程ゴリゴリな人じゃない限り、左右どちらから読んでも納得なんじゃないでしょうか、素晴らしいポリコレ回避感覚。
っつーか、エンタメとして充分面白いんだから、野暮な思想信条は言いっこなしってことで。

感想を元の戻すに、牛山大統領との熾烈な権力闘争ですよ。
共に百年法を推進した、カリスマ政治家と憂国の官僚。
自らが押し上げた絶対権力者に、有能すぎる故、遠ざけられる遊佐。
権力の放つ魔力は、かつてのカリスマを容赦なく老害へと堕落させる。
生存制限の百年が経ったとき牛山は、、、
くぅ~~堪らん。こんな展開、まるで秀吉と黒田官兵衛じゃんッ!!
ホントこの遊佐vs.牛山は手に汗握りました、今年のベストバウト。
上巻の最後ね、あの最高の引き、あんなに続きが楽しみなの久し振りだったわ。

巻末の参考文献見るに、不老不死がテーマなんで医学書ズラリと思ったら、マキャベリの「君主論」他、政治関連数冊。
それもこの権力闘争パートの面白さで大いに納得。
何?ドス黒いのはあんま好みじゃない?安心してください。他のパートも最高ですから。
不老不死が当たり前になった2048年の未来、どんな感じだと思います?
折角夢の技術を手に入れたのに、全く幸せじゃない灰色の未来が超リアルに描かれます。
不老不死になったとはいえ凡人は凡人のままなので、大多数の人間は社会の歯車(文字通りの意味で)として無味乾燥な労働に従事。
食事は不足している蛋白源を補うため普及した昆虫食。
さらに希薄になった家族関係。
徹底的に効率と生産性だけを追求した社会。
人々の心に澱のように溜まる諦観と倦怠感。
ひょえ~~暮らしたくねえぇ↓↓↓
上述の如く丁寧に練り上げられたディティールで、最高のストーリーが包まれてるので、ページを捲ればそこはもう2048年

こうして2048年に生きる庶民の目からも百年法の是非が語られます。
国家の命運を握る政治家や官僚とは全く別の視点。
あらゆる階層、全方位から命の重さを問いかける。
山田先生上手いッ
多元的な視点を加えることによって、作品の厚みが何倍にも膨れ上がります。
全ての命は、生まれ落ちたその瞬間から老い始め、そして死に至る。
この絶対であるべき自然の摂理を人間が科学の力で超越したとき、いったい何が起きるのか。
古今東西、不老不死をテーマにしたお話は数あれど、ハッピーエンドって皆無じゃね?
無神論者なんでこんな言い方したくないけど、神の領域っつーか、神聖不可侵なものっつーか。
クローンとか遺伝子組み換え作物とか、もう既に片足突っ込んでますよね。
つい最近のニュースでも報じられてたけど、中国で「HIV免疫持つ双子が誕生」とか。
このままいけば、好奇心が倫理をぶっちぎる日もそう遠くはないぞと。
勿論科学技術の進歩自体は人類にとって歓迎すべきことなんですが、その加速度と方向性には、空恐ろしさと不安を同時に覚えますね。
俺が保守的過ぎるだけなんでしょうか。

今作でも神の領域?に踏み込んだ人類へ強烈なオチが用意されてますが、やっぱりそう畳むよなと大いに納得。
山田先生と考え方が近いのか、要所要所でストンと腑に落ちるというか読んでて非常に心地良い。
っつーか、前半と全然違う作品の感想みたいじゃん。
いやぁ~~しかしまぁ、「不老不死が実現した未来」←このワンワードだけでよくもここまでお話を紡ぎ出せるもんです。
コレ原作でアメリカのドラマにしてほしいくらい。
ホントにエンタメのあらゆる要素がバランス良く含まれてるんで、どんな人でも楽しめると思います。

次はアクションバリバリのクライムサスペンスパートですね。
作中のキーパーソン伝説のテロリスト「阿那谷童仁」
全てが謎の人物。
しかしそれ故に、百年法施行後安楽死を拒否する人々の救世主に祭り上げられる。
警察による必死の阿那谷捜索、隠れ住む拒否者たちの摘発、拒否者居住区同士の政治的対立、これに大統領直属の特殊部隊まで介入してきて混沌のバトルロイヤル状態。
一体「阿那谷童仁」とは何者なのか?何が目的なのか?
この謎の読書牽引力だけでもかなりのもんです。
ってなわけで、権力闘争/庶民生活/クライムサスペンスと、この三つのパートがあたかも車懸りの陣の如く入れ替わり立ち代わり読者を攻め立てるわけ。
貴方はこの面白さに耐えられるかッ!?
ってな案配ですわ。
、、、って、ドエラい長文になってますけど、スイマセン「もうちっとだけ続くんじゃ」

後何か書き残したことは、、、
そうそう、生存制限年が尽きた国民が最後の時を迎える安楽死センター。
ここの描写がまた。
ここだけ作品中独特の空気を醸してます。
荘厳というか、諦観の極致というか、真っ白い虚無って感じが何とも、、、
死とは何か?
人ならば誰でも経験することなんですが、普段は意識してませんよね。
否が応でも考えさせられます。
俺もこのシーンに限らずこの作品を通して、生と死、そして老いについて思いに耽りましたよ。
勿論結論なんて出ないんですが、何っつーか、“若さ”というものに必死にしがみついていた自分が少し馬鹿らしくなったっつーか。
普通に“老いて”いくのもそんなに悪いもんじゃねぇっつーか、どのみち現時点では抗いようがないもんですし。
やっぱり結局は、自然が一番なんじゃないでしょうか。
、、、でも、もうちょっとだけ白髪染めは続けるけどねw

えぇーっと、ハイそんなとこ。長々お付き合いお疲れ様でした。

 

この超長文をもってしても、2019年間二位なんです。
★★★★☆