昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

ラスト号泣『日輪の遺産』

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浅田次郎

 

終戦直前の昭和二十年八月、近衛師団所属のエリート将校「真柴少佐」は、陸軍首脳よりある特命を帯びる。
「戦後復興資金とするため、マッカーサーから奪った財宝を隠匿せよ」
この特命に関わった人々の数奇な運命を描く。

流石ベストセラー作家浅田先生、文句なしの面白さ。
そして怒涛の大感動。涙腺パッキン崩壊、もう涙が止まりませんw
日本を思う人々の気持ちがビンビン伝わってきて、ホントに胸が熱くなりました。
だって、俺も日本人だもの。

隠匿作業中心の戦中・戦後パートと、ひょんなことから真柴老人と仲良くなり、隠匿作業の詳細を記した日記を託された不動産業者丹羽の現代パート、これが交互に進行する二軸構成。
あまりに戦中パートが面白いんで、現代パートに切り替わるとちょっとテンションが下がるという罠。
稲城のね、山ん中に隠すわけですよ。フィリピン独立のためにマッカーサーが貯め込んだ財宝、その額、何とッ時価二百兆ッッ
俺もね、あの辺りチャリンコでブラついたことありますけど、確かに緑深い丘陵地帯で、何かを隠すには持って来いという感じ。
作中は「武蔵小玉市」ってことになってけど何で?
三鷹とか府中はそのまんまで、何で稲城だけ「武蔵小玉市」なんだよ!?
ココだけちょっと引っ掛かりましたが、後はねもう文句無ぇっス。

陸軍首脳の極一部と、真柴、経理担当の小泉主計中尉しか知らない極秘の隠匿作業ですから。
戦後進駐してくる米軍は勿論、他の日本軍部隊、輸送・運搬作業に携わった民間人にも絶対に作業の内容が明らかになってはいけない。
この絶対機密保持の緊迫感が、読書中のドキドキをいやがうえにも盛り上げます。
原爆投下、ソ連参戦、敗戦のカウントダウンは刻一刻と迫る。
大量の財宝を速やかに隠匿しなければならない。
しかし機密保持が最優先であるため、作業従事者は少なければ少ないほどいい。
このジレンマ、ドキドキとモヤモヤが一体となって、グイグイ読ませます。
そして、万が一、この機密が漏れたときには、、、

読書慣れして勘が良い人は、序盤でもうピーンと来るんだろうけど。
戦中と現代の関係性の種明かしにビックリ。
成る程、そーゆーことね。
そうなんです。この時価二百兆ッッの財宝、未だ掘り起こされてないんです。
何故?どうして?戦後一体何があった?
この戦後から現代(バブル期)までの五十年間のミッシングリンクもこの作品の読みどころ。

そう、バブル期に書かれた作品なんです。もう二十年以上前。
浅田先生がベストセラー作家になる以前の作品ですが、メチャメチャ面白いじゃん。
やっぱ凄ぇな、才能ある人って。
これからも困ったときは、浅田先生で行こうと思います。

ちょっとネタバレになりますが、このシーンは書かずにおれないという名シーンがあるんで。
戦後進駐してきたマッカーサー、勿論血眼になって財宝を探すわけです。
懸命な調査の結果、陸軍出向から大蔵省に戻っていた小泉元主計大尉に当たりを付けるわけ。
このマッカーサーと小泉の対決よ。
互いの知力と度胸、愛国心と人生の全てを懸けたぶつかり合い。
過去いろんなジャンルの小説で様々なバトルシーンを読んできましたが、このカード、 ベストバウトかも。
ナヨナヨしていた草食系が、ここぞという時に魅せる漢気。
確かな知識、豊かな発想に基づいた綿密なる戦後復興計画。
そして、何よりも自分が生まれ育った祖国、大切な人々が暮らす国「日本」を守りたいという熱い気持ち。
そりゃマッカーサーも圧倒されるわ。
このシーンは、日本人なら誰もがグッと来るんじゃないでしょうか。

巻末に映画化の際の監督との対談が収録されているのですが、その中で浅田先生も仰ってます。
>当時を頭から悪いものととらえるのは間違い と。
勿論、侵略戦争軍国主義は大いに反省し、二度と繰り返すようなことがあってはなりません。
しかし、平成の絶対安全圏から道徳的見地をこれ見よがしに振りかざし、大上段に構えて当時を批判する方々にはどうしても違和感を拭いきれません。
絶望的な状況の中、日本を少しでも良い方向に導こうとした人たちもいたはず。
彼らの必死の生き様や、国を思う気持ちが、軍国主義と十把一絡げで全否定されるのは絶対に納得できない。
お金じゃないんです、彼らの何が何でも日本を守りたいという気持ちこそがまさに、「日輪の遺産」なんです。


日輪の遺産」 確かに受け取りました
★★★★☆