昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

文章の脳内映像変換率が凄い『土漠の花』

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月村了衛

 

ソマリア国境付近で墜落したヘリの救助活動任務に就く陸自の精鋭、第一空挺団

その宿営地に、部族間抗争のカギを握る女性「アスキラ」が助けを求めてくる。

否応なく抗争に巻き込まれていく第一空挺団の隊員たち。

自分の命を守るためには、このトリガーを引かなければならない。

専守防衛を嘲笑う暴力の真っ只中、果たして彼らは生き延びることが出来るのか?

映画映画。
まさに映像感覚、怒涛の展開、サクサク読めちゃいます。
そしてベタ。
っつーか、べッタベタ。王道中の王道。
直情型熱血主人公と冷静沈着・合理主義者のライバル。
ヒロインは、ミステリアスな美女。
で、戦場モノお決まりの展開、「ここは俺に任せてお前ら先に行け」 ←コレ連発w

さて所謂ベタですが、良い方に行くときと悪い方に転ぶときとあるわけで。
今回は、、、ハマった♪
ホント、涙腺パッキンユルユルだな。こんなベタな展開で泣けるか?っつーとこで、泣けちゃうんですねぇ~これが。
勿論、自衛隊員が命を張って仲間を助ける描写はグッと来ますが、俺が一番キタのは、隊員と地元アフリカの子供たちとの交流。
屈強な兵士が棒切れを拾って作った竹トンボ。それを見つめる子供たちのキラキラした瞳。
いいねぇ~~和みます。
とうの昔に消え去った、日本の原風景を重ねてるんでしょうか?

しかし、こんな長閑で平和な村にも、部族間抗争の魔の手が忍び寄る。
影に見え隠れする石油利権、大国アメリカの思惑、イスラム過激派の流入
否応なしに巻き込まれる我らが自衛隊、精鋭第一空挺団
ページを捲る指が加速する。

平和憲法下での軍隊(言葉遊び不要、敢えて直言)の運用。
撃つのか?撃てるのか?といった自衛官の心の葛藤に焦点を当てる展開になるかと思いきや、本作ではそういう理屈っぽくて小難しい話は殆ど無視、完全にエンターテイメントに舵を振り切ってます。
初っ端からドンパチ全開。
お約束の如く発砲を躊躇する隊員が一名出てきますが、その所為で仲間が窮地に陥ってしまうとうこれもお決まりの展開。
人を殺したくない(当たり前です) しかし殺さないと自分や仲間が殺されてしまう。

当然俺含め読者は、主人公である自衛隊側から読んでますから、撃て!早く撃て!となるわけですが、ボロ人形のように撃ち殺されるアフリカ人民兵にも家族や恋人、死を悲しむ友人がいるわけで。
そもそもそんな危ないトコ行かなきゃいいじゃんってなってくると、先の安保法案論争じゃないですが、PKO含め海外派遣絶対駄目みたくなるわけで。
じゃあ、引き籠った一国平和主義、日本だけ無事ならそれでいいのか?と。

最後、現状そういう曖昧な日本の安全保障状態を憂う描写が出てきますが、もうそろそろ日本人も本気できちんと考える時期なんじゃないでしょうか?いやホントマジで。
集団的自衛権は勿論、交戦権を持った普通?の軍隊として派遣できないならば、危険地帯に自衛隊を出すべきではないし、国際貢献国益を鑑みて派遣するのであれば、憲法改正その他法整備は急務です。
それは政治の責任であり、国民の課題でもあります。
こんなどっち付かずの状態を押し付けられる現場はたっまたもんじゃないッ!

ハイ、何かいろいろ捏ね繰り回してますが、↑みたいな小難しいことは考えなくていいです。
さっきも書いた通り、徹頭徹尾エンターテイメント路線なんで。
作品中の小さいしこりを、俺が訳知り顔で無理矢理拡大解釈しただけ。
主義主張は野暮ってもんです、純粋にアクション映画を鑑賞するかの如く楽しみましょう。

じゃあ最後に突っ込みを少々。
途中休息に立ち寄った村を発つとき、自衛隊の痕跡が残って追手にばれないように、足跡や轍まで完璧に消去する場面がある。
このとき信じられない忘れ物をするというミスを犯す。っつーか、普通コレ忘れるか?一般人でもこんなミスやらかさんわッ!ハッキリ言って、これが精鋭第一空挺団とはとても思えません。

俺のお気に入りのキャラが中盤で戦死。
構成上、止むを得ないとはいえ、ええ?コイツここで死なせちゃうんだ?みたいな。
これ以上はネタばれになるんで詳しく書けないのがツラいところ。

自衛隊内のイジメ、パワハラの暴露話が明らかな蛇足。
取って付けたような安いエピソード。

ラブロマンスがダサい。
戦場で相手が外国人女性、たどたどしい英語の会話ってことで、いたしかたない面多々ありとは申せ、もう少し洗練できたのでは。
まぁ、俺も桜と富士山好きですけどね。

こんなとこでしょうか。
兎に角、スカッと一気読みには最適の作品。ベタ好きの方、特におススメです。


映画化、、、狙ってんでしょ?
★★★☆☆