昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

最早戦争『地獄の犬たち』

f:id:ryodanchoo:20200619210559j:plain

深町秋生

 

関東最大のヤクザ組織に潜り込んだ警視庁潜入捜査官の、苦悩と葛藤を描くバイオレンスアクション。

のっけから凄まじい暴力描写。
当ブログで暴力描写といえば、現状この二作。

ryodanchoo.hatenablog.com

ryodanchoo.hatenablog.com上記二作の感想でも述べてますが、最近歳のせいか、ホントに過激な暴力描写に耐えられなくなってきてまして。
そして今作、「ダイナー」や「ブラック・ドッグ」にも過激さでは全く引けを取ってません。
にも関わらずサクサクと読了。

何故かッ!?
そ・れ・は、、、ヤクザだから。

いたいけな草食動物を嬲る展開は許せないくせに、獰猛な肉食獣同士の対決は途端にエンタメに早変わりという節操のなさ。
同じ暴力でも、弱者に向けられれば強烈な嫌悪の対象ですが、自分より強い者に立ち向かうときには強さへの憧れにも似た気持ちを含んでしまうという矛盾。
これは命の重さについても同じ。
真面目に生きている人間が理不尽に殺されるのは我慢ならないが、犯罪者や外道がどう野垂れ死のうと知ったこっちゃない。

問題の解決に“力”を行使する。

事象は同一にも関わらず、行使する人間、対象、理由によってこれほどまでに感情に差異が生じること自体差別なのではないか?
それでも、悪と対峙するには“善い暴力”、 より適切に言い換えるならば武力が絶対に必要。
結局俺も“力”の信奉者なんです。

この信念が変わることはありませんが、読書中揺らいだのも事実。
主人公の潜入捜査官兼高も、所謂その“善い暴力”の度重なる行使に耐えられなくなってくるわけです。
しかも兼高の組織内での役割は殺し屋。
短期間に組織内で出世するため、進んで汚れ役を買って出ているという設定。
ヤクザ組織を壊滅させるため、俺が殺しているのは生きる価値のない極道ばかりと自分を納得させようとしても、その燃えるような正義感は消え失せようとしていた。
任務完了までに俺はあと何人殺さなければならないのか?ってな具合。
しかも深町先生、警察側を徹底して冷酷無比な任務遂行マシーンとして描き、極道側を人間臭い魅力的なキャラで固めるという搦め手を駆使してきます。
杯を交わした親分や兄弟分を裏切っているという疚しさが、読者にもビンビン伝わってくる。
俺も感情移入が定まらず作中兼高同様、心は千々に乱れるばかり。

何せネタがネタなもんで。
日本に於ける潜入捜査の実態が皆目見当がつかない状況で、リアリティ云々は野暮なんですが、正直ちょっとぶっ飛び過ぎてる感じは否めません。
もうちょっと抑えた渋めの方が好みかも。
その分エンタメ方面には振り切ってますが。
殺人狂の変態、格闘家、軍人崩れ、組織の殺し屋が入乱れてのバトルに次ぐバトル、そして戦争なみのドンパチ。
勿論、外道をブッ殺しまくってヒャッハー!じゃ終わりません。
そこにスパイス的に効いてくる善悪と生死の倫理観。

社会から爪弾きにされ続けたあぶれ者が、極道世界の擬似的家族関係にやっと自分の居場所を見出すというのが何とも、、、
犯罪に手を染める前の段階、社会から零れ落ちそうになっている人たちが駆け込める場所、そんな受け皿があればいいのに。
本来なら家族や友人や恋人がその役割なんでしょうが、今はホラ、孤独な人も多いですから。

っつーか、最近どんな小説読んでも、感想がしみったれた社会批判に流れんなぁ~イカイカン。
これはね、明らかに歳を取ってきた証拠ですよ(哀)
ベタな勧善懲悪モノ読んで、あ~スッキリしたの方がいいのかしら。


キャラ死に過ぎ
★★★☆☆