昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

人斬り十名の競演『幕末刺客列伝』

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羽山信樹著

 

流石ッ鬼才羽山信樹ッ
題材が戦国武将から幕末の剣客に変わっても(羽山作品は以降続々アップ予定)、其の筆の勢いたるや全く衰える気配無し。
まあ、作品発表の時系列的に言うと、こっちのが先なわけだが。

題名の通り、幕末の刺客・剣客十人のオムニバス。
岡田以蔵田中新兵衛沖田総司、etc、、、

各話主人公が死に瀕し自分の生涯を回想した時、あるいは日常ふと思い出した時、各々の刺客が繋がっていくという構成。
俺の一番の御気に入りは四話目「半次郎の腕」
主人公は中村半次郎こと陸軍少将桐野利秋
舞台は西南戦争城山の陣。
最後の官軍の突撃を待つかたわら、かつて剣を交えた天才に思いを馳せる。
男の名は沖田総司
勤王と佐幕。相いれぬイデオロギーが二人に剣を交えさせるものの、命を掛け合った者同士奇妙な友情が芽生える。
いやぁ~~良い。

幕末の魅力。
あの数年の短い期間に、京都という限られた狭い空間で、あれだけの人物達がひしめき合ったという歴史的事実。
これ程の濃密な時空間があろうか?
そしてそれは、史実の合間で作家が自由に創作出来る絶妙なる時空間でもある。
土方歳三河上彦斎が同じ芸妓に入れあげる話とかね。
勿論、羽山先生の創作ではあるけれども、ひょっとしたら、、、っつーのが読者としてはたまらない。

読後に気付いたのだが十人いる主人公で、天寿を全うした者が一人もいないっつーね。
ホントに激しい時代だったのだなと。
自らの思想信条の達成の為に人を斬る、即ちテロリズム以外の何ものでもないわけで。
しかし湧き上がる憐憫、惻隠の情は止めどない。
かつて、歴史上これ程悲しきテロリスト達がいただろうかと。
志士達の熱き思い、志半ばで命を落とした若者達、そして新時代明治。
俺も日本人である以上、ビンビンに響いてくる。

最後に一つ。
十人各話の主人公につき、それぞれ身体のパーツがキーワードになってんのね。
半次郎は腕、以蔵が指、その他歯、瞼、etc、、、
で。
かわいそうに。
「ふぐり」をあてがわれた剣客が一人。
その名も見廻組佐々木只三郎
「ふぐり」っていじめかッw
そりゃないぜぇ羽山先生。
佐々木只三郎といえば、俺の中じゃ大河の『新選組!』の伊原剛志さんのイメージ。
エリートの遣手。
それが「ふぐり」ってw
案の定、十編中唯一コメディータッチな感じ。
佐々木只三郎のイメージ激変。


でもやっぱ俺は戦国派
★★★★☆