昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

今週は「羽山信樹週間」です『第六天魔王信長』

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羽山信樹著

 

ハイ、御存知織田信長です。
吉法師~桶狭間~金ヶ崎~姉川小谷城~長篠~本能寺という流れ。
ある程度の戦国好きなら当然、全エピソード既知も既知なのだが、羽山御大がいかにしてこの日本一有名な歴史上の人物の人生を描きだすのか?今作の要点はまさにこの一点にアリ。

御大初の戦国モノとのことで。
あぁ執筆時期の話ね、当然大ファンの俺は過去何作も読了済みです。
必然的に過去読んだ作品と比べてしまうわけで。
評価ってある意味、読む順番だよね~
俺が過去読んだ作品は、今作より後に書かれた作品っつーのがミソ。

例えば正に下巻と時代がもろカブりのこの作品の

ryodanchoo.hatenablog.com熟達の筆捌き、圧倒的重厚さに比べると、今作が醸し出す雰囲気はいかにも軽い。
もっと的確に表現するならば今風?最近書かれた小説みたい。サクサクと読み易い、難読漢字も全く無かったし。
でも刊行時期調べるに、「第六天魔王信長」から「滅びの将」って、たった三年しか経ってないんだよね。
読み易さは売れる為に大事な要素なんだろうけど、俺はやっぱ、歴史小説は重厚なヤツが好みです。

さて、他作品に比して軽いとはいえ、勿論今作にも御大特有の美意識が織り込まれているわけで。
ココの常連の方なら覚えていらっしゃるかもしれませんが、羽山信樹先生、俺が一番好きな作家さんなんですよ。
現時点、我が読書人生の頂点に立つ作品、『流され者』 も羽山作品ですから(記念すべき百記事目にアップします)。
デビュー作で最高傑作って、上の内容と矛盾してますけど。

で、御大の何がイイって、、、
滅びの美学、散っていく者の儚さ、純粋過ぎるほどの寂寥感、、、
コレ系書かしたらまさに究極至高、並ぶ者無しのナンバーワンだと思ってます。
読者に惻隠の情を抱かせる筆致がホントに天才的ッ!
織田信長と羽山信樹。
ヤヴぇ、最高の相性じゃん。
おいおい明智光秀もバッチリハマるじゃん。

日本人、特に俺、敗者が好きなのよ。
源義経からコッチ、脈々と受け継がれている我が大和民族の傾向ですよね。
「才ある者がそれを活かしきれず志半ばで斃れる」
↑コレ、マジ、大好物ッ♪
石田三成新撰組、あと変わり種で言えば戦艦大和とかね。
海外の価値観からすればルーザーですよ。これが日本だと敗者でも(敗者だからこそ!)人気あるヤツ多いじゃん。
儚さに美意識を見出してんですよ。侘び寂びとかもそうですけど、敗者や完璧でないモノに対して愛おしさを感じるこの日本人特有の感性、大切にしていきたいと思います。

またぁ~~全然本の感想書いてないじゃん。
えぇーーと何だっけ?、超有名な信長の話を御大がどう描くかってところね。
軸は徳川家康との友情です。
「事実は小説より奇なり」なんて申しますけれども、歴史の神様が名うての作家集めて、最高のシナリオに仕上げましたっつーくらい戦国時代は面白いからね。
将来天下人になる二人が、ガキの頃に逢ってるなんて!
この事実を元に後世、いくらでも話膨らませられるじゃん。

で、それなりの歴史通ならピーンと来たはず。
信長と家康の友情が軸→「信康事件」どうする?
そうそう、信長の命令で家康は息子を切腹に追い込んでるわけですから。
俺も思った。
こんなに心を通わし固く結び付いた二人の描写では、「信康事件」書けねぇじゃんと。

結局、、、
「信長の絶対的孤独を理解出来たのは家康だけ」
コレ、この一点のみで全部押し切る。

いや、そうするしかないんだろうけど、う~~ん、イマイチ。
解る、、、いや解らん!いくら世界で一番大切な人の為とはいえ、濡れ衣を着せられた息子を見殺しに出来るか??
と、今作最大のヤマ場が全然納得出来ないまま、モヤモヤ感を引き摺りつつ運命の本能寺へ。

当然光秀はミスター常識人なんで、こんなアクロバティックに狂人信長を理解出来るはずもなく。
やっぱ俺は断然こっち寄りだよね、自然と感情移入してしまう。
悲劇ですよ。
才ある者同士が、お互いを理解出来ずに傷つけあってしまう。
で、さっきも挙げた御大お得意の、滅びの美学、散っていく者の儚さ、純粋過ぎるほどの寂寥感てんこ盛りでもって、「是非に及ばず」と。
はあぁぁ~空しい切ないやるせない、そして美しい。
日本史で最も有名なこのシーン、結局どんな作品でも最後はこの感想に帰結してしまいます。

御大版信長一代記として大変面白く読ませてもらいましたが、やっぱどーしても、「信康事件」のたたみ方が引っ掛かる。


読む順番
★★★☆☆