昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

主人公誰?の川中島『吹けよ風 呼べよ嵐』

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伊東潤

 

御存知「川中島の戦い」ですね。
キモは主人公が信玄でも謙信でもなく、北信濃の国人「須田満親」っつーところ。
っつーか、誰だよッ!?って、ウィキで補完したら、意外と大物じゃん。

川中島最大の激突である第四次をメインに、全五回の戦いをガッツリ。
何年何月何日に誰それがどこを攻めたみたいな、ひたすら歴史的事実を列記する教科書的記述が多いのが多少気になったものの、概ね楽しく拝読致しました。

兎に角、謙信が格好良いッ!あっ、この頃はまだ長尾景虎ですけども。
利の武田、義の上杉とあまりに白黒ハッキリ色分けされてて、普通だったら俺が嫌いな描写のパターンなんですけど、謙信の格好良さで全部持って行っちゃうんだもん。
武田に侵略されている北信濃の救援ですから、例え勝ったとしても領地が増えるでもなし、上杉にとっては益の少ない戦なんです。
それでも“義”によって起つっつーね。格好良えぇぇッ!!
俺もこんな風に、常に弱者に寄り添う強き男でありたいね。
まぁ、毎回無益な戦に駆り出される上杉家臣団と越後の民はたまったもんじゃねぇが。

そんな謙信に持って行かれつつも、頑張る主人公「須田満親」
真田幸綱(幸村のおじいちゃん)の調略により引き裂かれる須田一族。
まぁ~~この真田の暗躍振りがエゲツねぇエゲツねぇ。
元々北信濃の豪族だからね真田氏。地の利を生かして内部から国人衆を蚕食。
信濃の有力豪族「村上義清」に付く者と、武田に取り込まれる者とで北信濃はバラバラ。
須田家も本家と庶家で、敵味方に別れることに。
兄弟同然に育った親友でもある従兄「須田信正」も、憎しみをぶつけ合う宿敵になってしまう。
川中島は信玄と謙信の因縁の対決であるが、満親と信正にとっても宿命の決戦場となるッ!

史料の乏しい部分は、伊東先生の創作なので、当然と言えば当然なのだが相当ドラマティック。
戦国の世のならいで敵味方に別れたとはいえ、心の底から憎しみ合ってるわけじゃない。
しかし、自家が生き残る為には何としても打ち倒さなければならない不倶戴天の敵。
この矛盾した状況でこそ起こり得る数々のドラマ。
戦である以上、血を流し互いに殺し合っているというのに何だろう?この爽やかに吹き抜ける一陣の涼風のような感覚は。
懸命に闘う男の生き様は、かくも美しい。

しかし主人公補正で「須田満親」、やや上げ過ぎかな?
二十歳そこそこの若侍が謙信に寵愛され、鉄砲の有用性に逸早く気付き、極めつけは、「啄木鳥戦法」を見破るっつーね。
活躍し過ぎでしょ。
謙信が飯炊きの煙で見抜いたじゃねぇーのかよッ!みたいな。
まぁ、定説がそうってだけで、実際の歴史でも満親大活躍してたかもしんないけど。
ウィキ見るにかなりの経歴だかんね。伊東先生の創作とはいえ、ホントのところは誰にも解らんところ。
ここいらへんの歴史的に曖昧な部分で、如何にリアリティを持たせつつ遊べるか?っつーのが、歴史小説作家の腕の見せ所。
毎回伊東先生はイイトコ突いて来ます。そもそも「須田満親」って、よく見付けてきたなと。
良い素材を調達出来るのも最高のシェフの条件ですよね。
でもやっぱ、第四次で窮地に陥った満親を、謙信御自ら助けに馳せ参じる場面はやり過ぎ。
読んでて吹いちゃった「こりゃ無ぇわw」つって。バリバリ格好良いけどね。


タイトル合ってなくね?
★★★☆☆