昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

対立と和解の物語『64(ロクヨン)』

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横山秀夫

 

超メージャーな大ベストセラー決め打ち。
映画化ドラマ化、数々の受賞歴、アマゾンに於ける絶賛。否が応にも高まる期待、上げまくるハードル。

 

昭和64年に発生した誘拐殺害事件を巡り、県警内部で刑事部と警務部の激しい派閥争いが勃発、広報部の三上は県警という巨大組織の中で細心の舵取りを迫られる。

 

対立と和解の物語。
刑事部と警務部、地方と中央、キャリアとノンキャリ、公と私、父と娘、、、
そして、真実を覆い隠すことによって保たれる安寧と、それを曝け出すことによって生じる混沌。
自ら信じる正義を貫くことが果たして最善の道なのだろうか?

いやぁ~疲れた、読み応え充分。
兎に角、登場人物膨大にして警察組織難解。
巻頭に登場人物一覧と警察の組織図希望。情報量パンク。
敵/味方、部署・階級・肩書きがごちゃ混ぜになって、キャラ再登場時「えぇーーっと、コイツは、、、」頻発。
唯でさえ多過ぎる警察関係キャラに加え、事件の容疑者、被害者、マスコミ関連、それぞれの家族ともういっぱいいっぱい。
プ・ラ・ス、本編も、昭和64年に発生した未解決誘拐殺害事件を軸に、情報開示を巡るマスコミとの軋轢、警察内部の派閥争い、主人公の娘の家出等が複雑に絡み合う展開。
いやぁ~疲れた、マジで。

しかしまぁ~巨大組織っつーのはどこもそーなんだろうが、ねぇ、どーして、こう派閥で固まって内部で争うかね?
歴史を例にとっても、豊臣政権然り、旧日本軍然り。枚挙にいとまが無い。
内部の足の引っ張り合いほど敵を利するもんは無いっつーの。
警察の敵は外、犯罪者共だろッ!とフィクションに対し憤りを禁じ得ない始末。
とはいえ、現実もコレに近いんだろうなぁというリアリティ。
だとしたら、とんでもない無駄な労力を内側に割いとる訳で。

マスコミ対応なんかも、読んでてもうイライラ。
錦の御旗報道の自由、国民の知る権利を付託されたメディアの容赦ない正義感っつーか、何つーか。
捜査の進行上、開示できる情報は自ずと限られてくるのは当然。
それを、だだっ子をあやす様なマネまでせにゃならんとは。恐れ入ります。
勿論主人公が県警の広報官なんで、そちらサイドからの描写という側面もあろうが、あんなことまで警察の仕事とはね、正直驚きました。

煩わしいことに係わず、正当な業務のみに専念出来る環境。
警察に限らず、巨大組織に生きる以上、上記のような状態に達するのは夢物語なんでしょう。
しかし、煩雑な人間関係を御することで養われる人間力っつーのも確かにある。
主人公三上義信、働き盛りの46歳。渋い渋いねぇ。
組織の中で揉まれてるだけあって、年相応の渋みが醸し出されてます。
俺、酸いも甘いも噛み分けたオッサンキャラ大好物なんで。
っつーか、登場キャラの八割九割オッサンですけどw
やっぱねぇ、チャラい若僧に出せない人生の重みがありますよ。
俺もさぁ、歳は同じくらい重ねてっけど、ホラ人生経験が(哀)
これまで人生の艱難辛苦に真正面からぶつからず、楽な方楽な方へ逃げてきたから。
本来刻まれてるべき年輪がツルッツルッなんです(哀)
だから渋いオッサンキャラには正直憧れます。

中でも俺のイチオシは、D県警捜査一課長で参事官の松岡勝俊。
渋いッ渋過ぎますッ
部下には自由にやらせて、責任は俺が取るみたいな理想の上司タイプ。
読了後すぐに映画版とドラマ版のキャスト確認しましたよ。
三浦友和さんと柴田恭兵さん。
う~~ん、三浦友和さんは本庁のキャリアのが似合いそうだし、柴田恭兵さんはやっぱ「セクシー大下」でしょ。あッ、あぶ刑事ねw
って、本の感想じゃねえぇぇぇッッ!

本作、「D県警シリーズ」の第4作目なんだってね。
それぞれ独立してるとはいえ、俺、シリーズものは一作目から読みたい派なんですけど。
副題にちゃんと「D県警シリーズ」って明記してほしい。
超重要キャラ二渡真治の印象が随分違ってくるんでしょ?ミスったわ。

未解決誘拐殺害事件の真相はやや強引な感じを受けたし、他の様々な問題も解決には至らない。
しかし激しい対立から、それぞれが一歩を踏み出したのは確か。
そして最後、三上が下した決断。
重厚な読書に疲れ果てた俺に、爽やかなる一陣の風が吹き抜けた。

っつーわけで、今回も取り留めの無い感想になってしまいました。

上げ過ぎたハードルの下を潜ることはありませんでしたが、勢いよく飛び越えることも出来ませなんだ。


ハードル上げ過ぎ
★★★☆☆