昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

人生の落とし穴に、絶対ハマらない自信あります?『東京難民』

f:id:ryodanchoo:20200502094142j:plain

福澤徹三

 

ごく平凡な大学生活を送っていた時枝修だが、些細な気の緩みと行き違いで大学を除籍処分になってしまう。
それを切っ掛けに次々と転落していく境遇。
このコンクリートジャングルに、難民として放り出された修の運命は?
現代の格差社会を鋭く抉る青春小説。

所謂「転落モノ」ですね。
コレホント他人事じゃないよ。俺だってあと一つ二つ転びゃ、あっという間にココまで落ちるぜ、怖えぇ。
何がっ怖いって、主人公時枝修に殆ど落ち度がないってところ。
そりゃキャバ嬢に貢いでるとか、ギャンブル狂いとかならしょうがないよ。自業自得、自己責任ですから。
普通に大学生活を送ってただけなのに、実家のトラブルに巻き込まれ気付けば、ホームレスっつーね、怖えぇ。
確かに世間知らずのアマちゃんだけど、普通の大学生だったらこんなもんでしょ。
俺も会社リストラされたらとか想像するにゾッとするわ。
真面目に生きて来たけど、いざって時のセーフティネットにはあんまり自信無いです。

作中台詞曰く、本来社会には三重のセーフティネットがあると。
国・企業・家族。
もともと国はあんまり何もしてくれない。終身雇用の崩壊、核家族少子化で企業と家族も当てに出来ないと。
今や、格差や貧困に浸食されつつある令和日本。
早急な対策が望まれます。
格差や貧困はやがて治安や世情に確実に悪影響を与えてきます。そーなったらお金持ちも住みにくくなるでしょ。
より良い社会は、国民全員で築いていかねば。

今作を読んで、福祉のタダ乗りや生活保護の不正受給、税金の無駄遣いといった行政上の不公平感と、ブラック企業や過酷な日雇い現場に代表される理不尽な労働環境がさらに許せなくなったね。
何故先進国の日本で、このような不正と人権侵害が罷り通っているのか?
悲しい哉、日本という社会は、真面目に黙々と頑張る人に甘える傾向があるように感じます。
「我こそは正義也、俺が俺が」と自己主張が強過ぎて、他の意見を全く聞き入れないのも考え物だが、我等日本人はもう少し、現状を改善すべく意思表示していくべきではなかろうか。

さて、世相斬りはこれくらいにして感想だが、いやぁ面白かった。
大学除籍からホームレスまで怒濤の展開。
アルバイト体験記としても読みどころ満載。
列記するに、、、

ポスティング→テレアポ→ゲイバー(面接のみ)→ティッシュ配り→治験→ホスト→日雇い→超ブラック日雇い→ホームレス(リサイクル業/空き缶・雑誌等)

といった案配。いやぁ~壮観
しかもそれぞれのバイトに、ノウハウやしきたりがあって興味深い。
福澤先生、相当御苦労なさったみたく。ナマの人生経験が作品の中で炸裂してます。
本当にリアルで、自分も流転してる気持ちになってくるし、着実により底辺へ一段階づつ落ちていく様は、読んでいてあまりのヤバさに逃げ出したくなるくらい。
普通の大学生に百戦錬磨の人生経験を求めるのも酷な話だが、法律や社会の仕組みに無知であるということがこれ程致命的なものか。これじゃ修が悲惨過ぎる。
やっぱさぁ~、社会のセーフティネットがもうちょっと手厚くてもいいんじゃね?
何か問題が起きたとき、初めにきちんと対処せず適当にやり過ごすことが如何に恐ろしいか、身に沁みたね。胆に銘じておきます。

そしてプロットの妙、散りばめられた数々の伏線が、後に繋がったときの爽快感ね。
こうくるかぁ~っつーのが随所に。
ホント「情けは人のためならず」、「人間万事塞翁が馬」ですな。
自己中心的でアマちゃんだった若僧が、数多の艱難辛苦を乗り越えて人間的に何倍も成長する。
底辺の生活を経験することによって、普通の暮らしの有難さや、社会的弱者の気持ちが解るようになる。
あまりの理不尽さ、不運の連鎖に、一時は読み進めないほどの圧に襲われもしたが、この読後感の清々しさよ。
そうねぇ~、土砂降りでずぶ濡れになったあと、晴れ間から覗く大きな虹を見たときみたいな。
時枝修君、これからの君の人生に幸あれッ!

 

万人にお薦め
★★★★☆