昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

全てのドリーマーたちへ『バベル九朔』

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万城目学

 

作家デビューの夢を追いながら、祖父が残した雑居ビル「バベル」の管理人を務める主人公九朔満大(きゅうさく・みつひろ)。
テナントが引き起こす様々な問題を日々処理しながら、渾身の大長編を執筆中だ。
ある日「バベル」に全身黒ずくめの「カラス女」が現れた時から、満大の周りで奇妙な出来事が起こり始める、、、

いやぁ~~何と言うか、、、う~~ん、感想を言語化すんのがこんなに難しいとは、、、

夢を追いかけてる課程のモヤモヤ感っつーのは、大いに共感しましたね。
俺も役者目指してた時期がありますから。
自分の才能を信じきれるか?チャンスを掴む運はあるか?成功を確信できるほど強くはないし、かといって諦めるには早過ぎる。
はいはい、ドリーマーあるあるですね。そーやって人生で最も貴重なリソース、“時間”を賭け続けてしまうという罠。
この何とも言えないモヤモヤ感が、莫大なエネルギーを蓄積してるっつーね。
あんまココ突っ込むとネタバレになっちゃいますけど。

ジャンル分けは、、、やっぱファンタジーかね。
最近流行りの異世界モノです。
バベルの名を冠してる以上、満大が飛ばされたその世界の中心には、巨大な塔が聳え立っていた。
飛ばされた異世界を守ろうとするキャラクター、異世界を精算(破壊?)しようとするキャラクター。
果たして、どちらの陣営に荷担すべきか?

「塔」

何て魅力的な建造物なんでしょうか。
雲を突き抜け、天に届かんばかりの超高層タワー。
ココをひたすら登って探索していくわけですが、このシチュエーションが堪らん。
塔、大好きなんだけど、俺だけ?
やっぱファミコンブームの時に、『ドルアーガの塔』の洗礼受けた世代だかんね。
謎を解きつつ塔を登って行くってだけで、もうワクワクが止まんない。
現実世界の雑居ビル「バベル」が、異世界の「バベル」にも作用しているらしく、雑居ビル「バベル」にかつて入居していたテナントが新しい順に下層階から連なっているという設定。
階段を登る度、次々と現われるかつてのテナント。
これがあらゆる業種にわたり、多種多様で非常に面白い。
店名が駄洒落になってるテナントも多くてニヤニヤさせられる。
居酒屋「清酒会議」、広島東洋カープ応援ショップ「コイする惑星」などなどw

そもそもこの異世界は何だ?何のために存在するのか?
この世界を守りたいキャラ、精算したいキャラそれぞれの目的とは?
どうすれば現実に戻れる?
この根本的な謎をエネルギー源とする強力な読書牽引力で、読者をグイグイと「バベル」最上階へと呼び寄せる。
そして主人公満大に突きつけられる重大な決断。
読者も大いに悩ませられるであろう。
俺も迷う迷う。
動悸息切れ、来たッ!半端ない感情移入。
人生、一度でも夢を追ったことがある人間なら、大いに共感してくれることでしょう。
俺みたいな塔マニアの読者以外は、ひたすら塔を登る展開がやや冗長に感じるかもしれんが、この決断シーンは読み応え満点。
ホントかなりの緊迫感。しかもこの後もう一回どんでん返しあるかんね。
、、、おっと、ちょっとネタバレが過ぎたぞと。

果たしてこの物語に悪は存在するのか?
誰が敵で、誰が味方なのか?
正しい決断とは?
全てが判然としないまま物語は進行していく。
実はコレ、人生に於ける“夢追い”も一緒なんだよね。
志を貫き、このまま夢を実現させるため努力を続けるのか、はたまた、しっかりと地に足をつけ、自分や家族や将来の安定のために生きるのか。
波瀾万丈な一生を求め続ける者もいれば、平穏な日常に幸せを見いだす人もいるでしょう。
こっちが正しくて、あっちが間違ってるなんてない。人生は自由なんです。

唯一確かなことは、たとえ他人からどんなアドバイスを受けたとしても、最後に決断するのは自分だということ。
他人の所為には出来ないし、過去に戻って決断をやり直すことも出来ない。
刻々と変化していく人生の局面に於いて、その都度、決断下せるのは自分だけ。
、、、、、、。
ぶっちゃけコレ、人生の核心じゃね?
だからこそ作中満大の決断に唸り、その重みが読後じっくりと心に波紋を拡げるのを充分に楽しめました。
人生、一度でも夢を追いかけたことがあるドリーマーにこそ薦めたい。


決断の重み
★★★★☆