昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

不思議系副将『東京自叙伝』


先ず表紙からして攻撃的。赤地に白の極太明朝体、端に鼠一匹。
怪しげな思想本か何かか?それにしても毒々しい。
書架でも異様な程の存在感を放っておったが、あまりにギラギラしてるもんで忌避しておりました。
で、今回読んでみてヤッパリなと。

改行を控えた圧迫感あるページ、難読漢字大量、怪文奇文迷文とはいかないまでもゴテゴテとした文章、ダラダラ続く逸話、そして何よりブッ飛んだその内容ッ!

あらゆる生命体に“憑依?”しながら、何千年も東京で生き続けてきた魂?の話。
作中では↑のことを「東京の地霊」と表現してます。
輪廻転生とも違うんだよね、死んで他の生き物に生まれ変わるわけじゃないから。
個体の死は勿論、魂が憑依している個体が東京を離れる、地震や火事の災害等でも憑依先が変わる。
むしろ人間に憑依することは稀、猫や鼠、さらに下等なミミズや螻蛄のときが多いらしい。

兎に角基本設定からしてブッ飛んでるので、何でもやりたい放題。
その悠久なる転生?の歴史の中から、幕末から現代にかけて憑依した六人の人間の人生を通し、東京が経験した激動の近現代史を、「東京の地霊」の一人語りによって読者がなぞっていくという体。

自然といえばいいんでしょうか。
作物やエネルギーを人間に供給してくれたり、そうかと思えば、地震や異常気象で容赦なく文明社会を襲う。
人間にとってかけがえのないモノであると同時に畏怖の対象でもある。
自然自体に、人間を助けてやろうとか懲らしめてやろうという意思はないわけで。
件の「東京の地霊」がまさにこんな感じ。
無意識の神っつーか、超適当な高次元生命体、幼稚な超越者みたいな。

大元がコレなもんだから、憑依した六人の性格も当然善良とは言い難い。
それでいて優秀にして出しゃばり、国家の中枢に入り込み歴史にちょくちょく絡んでくるんだからタチが悪い。
近現代史数々の歴史、大事件の陰に「東京の地霊」アリですよ。

俺が一番喰い付いたのは第二章の「榊春彦」、関東大震災にて憑依を確信、シベリア抑留で幽体離脱する?大正~昭和初期担当の語り部ですね。
職業は陸軍軍人、しかも参謀本部付きのエリート。
226は間接的(読んでてこの展開はちょっと意外、ガッツリ絡んでくると思ってたんで)だが、ノモンハン、太平洋戦争開戦の世論工作、緒戦の作戦立案はほぼ首謀者。
持ち前の無責任かつ貪欲、自由奔放な性格でもって、東京延いては、大日本帝国を崩壊に導く。
近現代史でいえば、やはりこの時代が一番激動だし、俺も軍オタなもんで一番興味深く読ませてもらいました。

幕末編は憑依した人物が意外と小物、しかも当時歴史の渦の中心は江戸東京というよりは京都なんで。
「東京の地霊」だから、東京以外だと全然活躍出来ないというのがミソ。
せいぜい上野彰義隊と一緒に戦うくらい。
「榊春彦」以降は、戦後闇市を仕切るヤクザ→高度経済成長を牽引するビジネスマン→バブルで浮かれまくるギャル→原発作業員という流れ。段々こじんまりしていくのでやっぱり榊の「大戦編」が一番読み応えがある。
歴史と同時に、軍隊よもやま話みたいなものも織り交ぜてあり非常にそそる。
故に第二章を頂点に憑依する人物が徐々にスケールダウンしていって、歴史の裏の目撃談から、ただのいけ好かない輩の与太話になっていくのが残念。
だってさ、第二章ではガダルカナル島へ数万の兵力を投入するとかやってんのに、第五章じゃ、「ジュリアナで扇子を振るのを流行らせたのは私です」だぜ。
最終章に至ってはただの小物なんだもん。
 
そもそも「東京の地霊」とやらの本質が鼠らしいので、貪欲、自由奔放、無責任という基本性格は変わらないものの、世界制覇まで考えた気宇壮大さが消え、接触する時事が萎んでくると本来の悪辣な部分ばかりが相対的に強調され、いよいよ話は陰々滅々に。

ここいらへんは実際の東京/日本が発散するパワーとリンクしてんのかね?
そしてもう一つ重要なこととして、主人公?かつこの「東京の地霊」が、東京に愛と憎、二つの相反する感情を抱いているということ。
東京の発展・興隆を願いながら、同時に破滅を待ちわびる。
戦火に焼かれ、地震に崩れ落ちる街を眺めながら、カタルシスに浸る。
壮大なるサイコパス
こんなヤツに首都東京の命運を握られてたんじゃあ、堪ったもんじゃない。
面白く読んでたはずなのに、最後の方はホント嫌な気分。

奥泉先生、東京っつーか、日本のことあんま好きじゃねぇーのかしら。
俺は東京も日本も大好きなんで、やっぱりあんま悪し様に貶されるとカチンと来るね。
面白い/面白くないでいうと微妙、好き/嫌いとでいうと、ハッキリ言って嫌い。
だけど見て、この長文。
これだけ書いてまだ上っ面だぜ、まだまだこんなもんじゃないよこの作品は。
各章が緻密に連動した全面是伏線状態、膨大な登場人物が織り成す複雑な人間関係の数奇な繋がりも今作の見所。
仮面ライダーとかウルトラマンとかで、旧キャラが助けに来てくれる回あんじゃん。
燃えるでしょあの展開。あれが次から次に起こる感じ。
あと場所の因縁ね。「あッ!ココ前誰々だったとき住んでた場所だ」みたいな。
それが東京中アチコチに点在してて、それを追いかけるだけでも都内在住者としたはまた別の楽しみ方を発見したよう得した気分。

兎に角まぁ凄い作品ですよ。あんま面白くないし嫌いだけどw  
俺の中で既存の評価軸を越えた作品っつーことです。

オンリーワンが二つになってしまった
★★★☆☆