昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

スイマセン、ナメてました『火花』

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又吉直樹

 

御存知大ベストセラー。

読もう読もうと思いつつあっという間に刊行から数年、遂にッ又吉先生と初対決。

なんぼのもんじゃいッ!!

正直申しますとねハイ、芸人作家がデビュー作で芥川賞

ほぉ~どれほどのもんか見せてもらおうじゃないですかっつってね。
どーせ内容じゃなくて知名度で獲ったんでしょと、ガードをガチガチに固めて読み始めたわけでございます。
 
、、、、、、。
 
愛おしさのメリケンサックがガードこじ開けて、深々と顔面にめり込んだわ。
斜に構えてた色眼鏡が粉々。
いやぁ~~参った、漫才のシーンで号泣。
おっといきなりのネタバレ、サーセン
そして無礼な先入観による不当な評価、大変申し訳ありませんでした。

売れない漫才師徳永は、熱海の営業先で破天荒な漫才師神谷と出会う。
意気投合した二人は師弟関係を結ぶことに。
純粋すぎる男たち二人の十年にわたる物語。
 
もうね、全編「愛おしさと切なさと心強さと」で溢れてますッ、、、えぇ~~と、心強さは無いかw
全てのエピソードが居たたまれなくて、息苦しくて、懐かしい。
行間から又吉先生の優しさが滲み出てます。
話したいもんマジで。
作家さんに感想聴いてもらいたいと思った作品って初めてかも。
読み終わった週の休日に、吉祥寺まで繰り出しちゃっいましたからw
徳永が都心の密度に気後れして、井の頭公園で癒やされるっつーのも共感バリバリ。
ちらほらと、又吉先生の東京への愛着を感じるのも今作の好きなところ。
若者の夢を貪り喰らうだけの街、コンクリートジャングルの化け物みたいな描写だと途端に萎えます、俺、東京好きなんで。

そうそう吉祥寺といえば「武蔵野珈琲店」シーン、このシーンで一気に今作が好きになりまして。
雨宿りに寄った喫茶店を出る際、マスターからビニール傘を貰う神谷。
外に出てみるともう雨は止んでいた。
マスターの好意を無碍に出来ず、晴れた中、傘をさす神谷。
そんな神谷を見て徳永は思う。

>僕は憧憬と嫉妬と僅かな侮蔑が入り混じった感情で恐れながら愛すのである。

沁みる、この一文にこの作品の全てが凝縮されてる感じ。
徳永から神谷への思いを越えて、読者から又吉先生へ。
安定した生活を送る者から夢を追い続ける者へ。
枯れ始めた中年から青春真っ只中の若者へ。
夢と現実。
多かれ少なかれ全ての人生に存在する葛藤を流麗な文章で紡ぎ出す。
文学好きの読書家又吉先生らしく、本当に表現が美しい。
勿論着飾った文章ばっかじゃなくて、芸人同士の会話は砕けまくりでアホらしさ全開。
それ故、純文学に分類されながらも非常に読みやすい。
しかしながら、ここいら辺の激し過ぎるギャップは非常に好みが分かれるところか。

ネット上の批評を散見するに、やはり賛否両論噴出。
デビュー作で芥川賞、二百万部超の大ベストセラーとなればむべなるかな。
やっぱねぇ~正直、出版業界の思惑も絡んでたと思うんですよ。
本が売れない出版不況の昨今、この抜群の話題性が全く選考に影響を与えなかったなんてことがありえるんでしょうか。
結果、作品よりも芥川賞のベストセラーという現象だけが取り沙汰されることに。
読む前の俺がそうであったように、あらゆる面で異様にハードルを上げられてしまうというか、作品の内容以外で色々足枷をはめられてるというか。
二作目『劇場』(必ず読みます)の売り上げがどれほどか存じませんが、次の大ヒット作が出るまで、このデビュー作『火花』が作家又吉直樹を縛り続けるという皮肉。
作中、売れない芸人のもどかしさをこれでもかと描ききったのに、当の又吉先生が売れ過ぎたことに苦しむことになるとは。
ドラフト一位のルーキーとして華々しくデビューさせるより、業界全体で二軍からじっくり育てた方が良かったのではと要らぬ心配が止まりません。
芸人として大成出来なかった徳永は、その不運を誰の所為にもしませんでした。
売れなかったことを相方が悪い、東京が合わない、世間が古いと何かの所為にしても見苦しいだけ。
ネットに溢れる誹謗中傷さえ、淡々と受け入れる徳永は清々しく、その前向きな姿は俺も見習いたいぐらい。
この心境を書ける又吉先生なら、売れ過ぎたプレッシャーなど歯牙にも掛けないか。

さて芥川受賞の件はこれぐらにして、やっとこ感想に移りたいと思います。
話題先行ではありますが、基本はベタなのかなと。
「才ある者がその才を活かせず敗れていく」
↑これに同情を寄せる構図。
義経以来連綿と続く日本人のDNAに訴える物語。
石田三成新撰組戦艦大和、、、皆好きでしょ?
これを軸に、芸人世界の裏話を愛おしさと切なさで包み込むと又吉版「キッズ・リターン」完成。
俺もベタに弱いんで。感情移入バリバリでうんうんと読み進めていると、、、
 
絶句ッッッ
 
安心して下さい、ベタでただ面白いだけじゃ俺もここまで絶賛しませんって。
終盤神谷のある行為で、徳永が凍り付くシーンがあるんですが、ま・さ・に絶句。
読んでて、マジ誤植だと思ったからね。
それまで積み上げてた作品の雰囲気ブチ壊し。
オイオイオイッ、何してくれてんのッ!?!?
漫才のシーンで感動した後だから余計に → 俺の涙返せッつって。
折角『火花』という作品を好きになりかけたのに、何じゃこの仕打ちはと。
大いに憤ること数十秒、、、待てよ、、、ひょっとして?
神谷の笑い、神谷というキャラクター、もっと言えばその場の空気そのものを感じさせる又吉先生の高等技術なんじゃね??
これね、感情移入とか臨場感とかそんな生易しいレベルじゃありません。
登場人物と読者を隔てる次元の壁が一瞬にして崩壊、完全なる一体感、空間の共有。
あの居酒屋へ、まさに神谷の向かい徳永の隣の席に読者を引きずり込みます。

三百冊近く小説読んでますが、この感覚は初めて。このシーンだけでも充分に四ツ星の価値アリ。
禁じ手まがいの豪快な荒技、受け付けない人はここで読むのやめちゃうかもってくらいの諸刃の剣なんですが。
しかしッ、あの唯一無二の読書体験、究極フリーズを是非味わっていただきたい。

愛おしく切ないエピソードで引きつけるだけ引きつけておいて、終盤にメガトン級の地雷埋設とはやってくれます。
泣いて笑って憤る、まさに感情のジェットコースター。
しかも芥川受賞にしてベストセラーの超話題作。
152ページでサクッと読めます、薄い薄い。
さあ未読の皆さん、もう読むしかないッ!!
嗚呼、この気持ちが冷めないうちに誰かと語り合いたい。

原作読むに断然映画よりドラマ派
★★★★☆