昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

泣けます『池田屋乱刃』

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伊東潤

 

皆さん御存知「池田屋事件」ですね。

熱い、熱いッこれぞ幕末の真骨頂。
戦国の勝つため、生き残るためには何でもやる。親兄弟でも切り捨てるっつードロドロしたしぶとさ、老練さ、狡猾さ、そーいったもんは皆無。
ひたすら純粋で猛烈に熱い。

いかに天下国家を憂い、天誅行為を美辞麗句で覆い隠しても、己の思想信条を実現するため暴力を用いた時点で、明らかなテロリズムなわけで。
そしてその志ある“テロリスト”達を治安維持の大義のもと、白刃をもって徹底的に弾圧した「新撰組」もまた、国家権力の権化といえるだろう。

テロリストと国家の狗。
本来、この唾棄すべき属性を背負った人々が何故こうも魅力的なのか。
列強の侵略から愛する日本を何としても守りたい。
勤皇と佐幕、攘夷と開国。歩む道は異なれど、目指す先は同じなのに何故、何故ッお互い憎しみ合い、血を流さなければならないのか?
志士と新撰組、二つの相容れぬ正義が京都三条池田屋で激突する。

新撰組の間者が主人公で、ああこれなら両サイドからの視点で描けるなと感心して読み進めていたところ、まだ冒頭五分の一ぐらいのところで、もう新撰組池田屋突入。
ええ?展開早過ぎね??と戸惑っていると、、、

全五篇の短編連作でした。
あ~ビックリした。古高の拷問の件とか予想してたのに、いきなり突っ込んでんだもん。
あと五分の四どーやって繋ぐの?って、短編連作かよッ!

「福岡祐次郎」、「北添佶摩」、「宮部鼎蔵」、「吉田稔麿」、「桂小五郎」の五人がそれぞれ主役。

新撰組サイドを一人くらい入れてもよかったかなぁとは思うが、一応「福岡祐次郎」が新撰組の間者だったという設定なんで。
それに脇で土方が、まあぁ~いいキャラしてるんで。
「副長の土方だ」って、自己紹介だけでこんなにかっちょいいキャラおるか。
京の街で路頭に迷っていた祐次郎を拾って、間者に仕立て上げていくのだが、登場シーン登場シーンいちいち格好良い。
「それからな、連中の熱には浮かされるな」
諜報活動で志士と接触するうち、その国を憂う激情に感化され始める祐次郎。
副長もう遅ぇッス。俺もすっかり浮かされてしまいましたw
だってホントに純粋で熱い漢たちなんだもん。
好きに、否ッ惚れずにはいられない。そう男が漢に惚れるとはまさにこのこと。

で、俺のお気に入りは、三篇目『及ばざる人』の宮部鼎蔵
何ちゅうデカい漢でしょう、格好良過ぎ。そりゃ福岡祐次郎も感化されるわ。ホントに魅力的だもん。
そして盟友吉田松陰との友情。
熱情の松陰と理論の鼎蔵。互いを認め合いつつ、時に激しく反発しながら二つの巨星が国事に奔走する様は、読んでいて本当に胸が熱くなりました。
特に、日本海の漁火を見ながら誓いの金打シーン。
恥ずかしながら大泣き。大粒の涙が止めどなく溢れ出て来る来る。
流石、伊東先生御母堂曰く「長編も含めた全作品中の最高傑作」、まさに仰る通り、俺も大感動ッ!
職場の食堂で読んでるんでこちとら。恥ずかしいったらあらやしねぇけど、涙が止まんねぇんだもん。
これほどの男が志半ばで死なねばならんとは、、、もし動乱を生き抜いていたら、明治日本でどれほど活躍したことか。
歴史にIFは禁物と解っているが、夢想せずにはいられない。

そうそう五篇目の『英雄児』桂小五郎にも触れておかねばなるまい。
そう「逃げの小五郎」ね。
兎に角皆、武士道に凝り固まってるわけよ。目的の達成よりも名誉の方取っちゃうから。
ここは一旦引いて後日再起を図る、譲れるとこは譲って今時点での次善策を導きだすっつーのが出来ない。
皆白か黒か、零か百かで死に急いどる。MOTTAINAI
逃げるのは恥じゃない、戦略の一つ。どーも日本人はコレが苦手らしい。
死ぬ間際、仲間を見捨てて京の街を逃げ回ったことを悔いる小五郎改め、木戸孝允
読者は、前四篇で武士道に引っ張られて、死ななくてもいい男たちが志半ばで散っていくのを目の当たりにしてるわけですから、この五篇目で大いに考えさせられるに違いない。
上手いッ伊東先生。
結局この弱点は敗戦まで引き摺ることになって、明治維新で自らが打ち立てた大日本帝国を崩壊に誘う遠因になっていくのだが、、、

短編連作の宿命として話によって多少の浮き沈みはあるし、五編全部志士側視点で、新撰組描写が薄いとか、そりゃ言い出したらいろいろあるが、金打のシーンが良過ぎてそんな細けぇことは全部ブッ飛びました。


いやぁ~~泣けた
★★★★☆