昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

全既婚男性必読『紙の月』 

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角田光代

 

例によって例の如く書架をうろついていて、上記タイトルを目にした瞬間、宮沢りえさんの顔がパッと浮かび即決。

一億円横領事件の裏に隠された中年女性の悲哀と業。

切なさ、やり切れなさ、恐怖、不安、焦燥感、、、
どっと疲れましたね。
常々リアリティ重視を公言してますけれども、こーも人間の悪意、、、悪意?悪意じゃねぇな。
悪意じゃなくて、、、狡さ、汚さ、嫌らしさみたいなもんをまざまざと見せられるとね。
リアリティどころじゃねぇッ!噎せ返るような生活臭。
まさかまさか、女性作家が描く女性キャラに、ここまで感情移入させられるとはッッ

戦火に追われ難民になってるわけでもなし、独裁者に抑圧されて息苦しく暮らしてるわけでもない。
満ち足りたこの平成日本で生活できているというのに、何なんでしょうか?この透明な壁で囲われたかのような閉塞感は。
幸せって何だろう?夫婦って?親子って?

「本当の幸せはお金では買えない」
まぁ、古来より散々言われ続けてきてる真理ですけど。
でもやっぱ金ないとなぁ~~ね?ね?そうでしょう?
本当の幸せは買えないかもしれんが、ある程度の幸せは買えるからね。うんうん。

いや俺もね、人間ですから。当然欲望っつーもんがあるわけで。
金、モノ、色、地位、名声、、、常に欲してますよ。
でもね、湧き上がる欲望に覆い被せてる理性のフィルターにも絶対の自信があるんです。
欲望が実生活にはみ出してきて、人生に悪影響を与えたみたいなことが今まで殆どありませんから。
昔カードゲームにハマって散財したこともありましたが、過去物欲が小遣いの範囲を越えたことはありません。
クレジットカードも持ってねぇし、そもそも借金して何か買おうだなんて考えもしないですね。
良く言えば堅実・真面目、別の言い方をすればリスクを徹底的に忌避してツマらん人生を送ってきたっつーことです。

そんな俺が、この俺が、、、主人公梅澤梨花の横領シーンで、も~~心臓バクバク。
動悸息切れ手は震え、読めねぇんだもんw
(落ち着け!これは小説、フィクション、俺と関係ない話だから)
つって、一旦仕切りなおさないと読書続行不可能っつーねw

どんだけ感情移入してんだよッ!

いや~~角田先生の巧さか、はたまた俺の感受性の強さ、、、否、メンタルの弱さか。
さっき理性のフィルターに絶対の自信があるって嘯きましたけど。
梨花の転落ぶりを目の当たりにして、本当に大丈夫か?と、わなわな恐怖が迫り上がってきたぞオイ。
怖ぇ。いつこの平凡な日常が壊れてもおかしくねぇぞと。
例えばさ、飲みの帰りに勢いづいて、キャバクラかなんぞ繰りだして、ええ。
若い娘に入れあげて、挙句借金してまで通い詰めて貢ぐなんてことにならんとは言い切れん。
ないよ、ないけどね。でも百パー絶対無いとは断言出来んでしょ。未来のことは誰にも解んないだから。
そーゆー、心の奥深くに燻ってる澱のような不安感を掬いあげるリアリティがこの作品にはある。

三十万部?そりゃ売れてるだけのことあるわ。
いくら俺がアンチベストセラーとはいえ、面白いモンは面白い。
梨花には海外じゃなくて、国内に逃亡してもらって、逃亡者としての続編書いて欲しいくらい。
無粋ですけどね。そういうテーマじゃねぇし。

あと何だ?あー言葉の大切さ?
日本人の悪い癖なんだけど、「言わなくても解るだろ、察してくれよ」みたいな。
解んねぇーっつーの、エスパーじゃないんだから。
話す。表情や態度だけじゃなく、言葉で今自分がどう感じているかということをきちんと相手に伝える。
親子、夫婦、友人関係。面倒臭ぇけどね。
でも何にも話してないのに、「どうして俺のこと解ってくれねぇんだ?」つっても始まらんでしょ。
お互い理解してもらえる努力をしないと。
っつーわけで、独身の俺が言うのもなんですけど、全既婚男性必読ですww


勉強させていただきました
★★★★☆