昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

奇想天外ッ羽山流剣豪小説『邪しき者』

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羽山信樹著

 

上中下三巻計、千項弱の大長編ようやく読了。
まさに奇想天外にして気宇壮大、濃厚な読書体験となった。

宿年の大敵、豊臣家を大阪の役に屠り、もはや徳川幕藩体制は磐石と思われた三代家光の御代。
火種は内にあった。
将軍家と御三家筆頭尾張藩との確執。
将軍家光と尾張藩徳川義直、共に神君家康の後継者を自負する甥と叔父。
朝廷の権威と幕府の権力がせめぎ合う中、筋金入りの勤皇家である義直は幕府(家光)への義憤を募らせていた。
そんな折、尾張名古屋城下にかつての南朝後醍醐帝の血を引くという、「新珠尊之助」なる謎の美男がふらりと現れる、、、

読書人生にして初の購入本。
羽山作品は『光秀の十二日』以来心酔してるので、この際集めるかと(2012年より蒐集継続中、「光秀」近日アップ予定)。

いわゆる剣豪モノ。
いや~~凄まじい濃厚さ、驚くべきはその情報量。
登場人物膨大。柳生一門だけで何人出んだよ?巻頭に登場人物一覧表は欲しかった。
そう、親切設計じゃないわけ、一昔前の歴史小説って感じ。
漢字読めねぇーわ、単語の意味解んねぇーわ。
だが、それがイイ!
最近の作家さんは、大分噛み砕いて書いてくれてるけど、やっぱ威厳に欠けるぜ。
例えば、台詞の呼びかけも名前じゃなくて、役職とか通称の方が断然渋いしね。
義直様より尾張大納言様ってね。

物語は二軸構成で進む。
剣豪・忍者・刺客入り乱れてのチャンバラと、お偉方達の権謀術数を駆使した権力闘争。
柳生宗矩、十兵衛、宮本武蔵まで出張ってくる、まさにオールスターキャスト。
しかしそこは活字メディアの限界、やはりアクション描写は天才羽山信樹をもってしても、漫画なり実写には及ばない。
アクションから受ける衝撃は、やはり文章からの想像より視覚情報からの方がデカイ。

その分、キャラメイクは素晴らしい。
漢が惚れる漢、続々登場。
自由、思想、忠義、強さ、信じるものはそれぞれなれど、己の信念を貫く様は文句なくかっこいい。
台詞ものっている。
読んでいて思わず声にだして発音したい衝動にかられる程、実は俺、昔お芝居やってたこともあるんでw
「馬曵(ひ)けいっ」←コレが一番の御気に入り。

剣豪小説である以上、一番の売りは勿論チャンバラなのであろうが、、、っつーわけで、俺的にはもう一軸にハマったのである。

尊之助を擁し倒幕を企てんとする尾張と、それを逆手にとり義直失脚を狙う幕府中枢。
両陣営に群がるあらゆる勢力。超メジャーと有象無象。
伊達政宗鄭成功、オーガズムを悟りと結びつける謎の邪教集団、能好きの羽山先生よろしく忍者のような能役者達、中国拳法の達人、果ては齢三百を超える仙人まで、、、
濃ゆいッ濃過ぎるッッ クラクラするぜ。

これに南北朝時代の因縁が絡んでくるわけで。
俺も歴史マニアを自認してるものの、、、南北朝って。
所詮戦国と二次大戦だけのピンポイントなのね。
もう話がデカ過ぎて、消化不良ですよコチとら。

そして “ブッ飛んでるけどブッ飛んでない” この凄さ。
解ります?言ってること?
「徳川実記」等資料を徹底的に研究されて書かれており、史実の合間に絶妙の匙加減でフィクションを織り込んであるので、ひょっとしてこれが真実なのかも?とまで思わされてしまう巧妙さ。
こんなにブッ飛んでるのによ、だって三百歳の仙人だぜw

やっぱり羽山信樹は素晴らしい。
もうちょっと世間から評価されてもいいと思うのだが。


主人公強過ぎ
★★★★☆