昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

『信長の原理』とは?

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垣根涼介

 

書店でこのタイトルと装丁を見かけた瞬間、すぐにピーン!と来まして。
著者名を確認してやっぱりねと。

ryodanchoo.hatenablog.comまさか、あのイメージドンピシャの垣根光秀に再会出来るとは。
これは否が応でも期待が高まります。
勿論タイトル通り主役は信長ですが、光秀が絡んでこないわけないので。
っつーか、織田軍団幹部それぞれの群像劇です。
信長・光秀は勿論、羽柴秀吉柴田勝家丹羽長秀佐久間信盛、さらには同盟関係にある松永久秀徳川家康と。
それぞれにバッチリ見せ場あり。
小説でありながら、組織内での立ち位置を指南するビジネス書の様でもあり。
非常に興味深く読ませていただきました。

光秀の「定理」はインチキ博打の確率論?でしたけど、じゃあ、信長の「原理」は?
ド定番の話に何かしらの法則をねじ込んでくるのが垣根スタイル。
今回は、、、ズバリ「働きアリの法則」です。
どんな集団・組織でも構成員の割合が、働きの者二割、日和見六割、サボり二割に別れてしまうというアレです、詳しくは各自検索下さい。
近代に確立した経済法則を、戦国の天才児・吉報師(信長)が数百年早く発見してしまうわけですねぇ~
長じてからの実験で法則に確信を得た信長は、当然自らの軍団にその法則を当て嵌めていくわけですが、、、

この実験のシーンが凄い。
わざわざアリを捕まえては選り分け、細かくなった集団をさらに選り分ける。
この気の遠くなる作業の描写が数ページに亘り、クドいくらい延々と続くからね。
しかも、この実験に付き合わされたのが○○というね。
これがッ後の歴史の伏線に、、、
おっと書き過ぎたかッ!?
戦国通で勘の良い方にはネタバレですね。スイマセン。

ハッキリ言って信長の生涯なんて、もう既知も既知なわけですよ。
当然知り尽くしたエピソード連発なんですが、新要素「働きアリの法則」たった一個ブチ込むだけでこんなに面白くなるっつーね、戦国武将の一代記でありがちな史実羅列のイベント流れ作業みたいな感じが全くしません。
愛情に触れずに育ち、徹底的な合理主義に凝り固まった信長像もストライク。
そんな信長が不意に見せる優しさや、戦場での卓越した指揮官振り(桶狭間でのタメ最高ッ)に痺れます。
時折挟まれる場違いな台詞、「彼ら」(信長なら奴らじゃね?)とか「天国」(まだ宣教師と会ってないのに?)は、御愛敬。
さて、光秀~信長・定理~原理と来たら次は誰のどんな法則なんでしょうか?
定番の歴史モノに新手の法則をブッ込んで掻き回すという垣根スタイル、確立したんじゃないでしょうか。

実は「働きアリの法則」って、“サボってるアリ”二割が重要なんです。
然しもの天才・信長といえども、この法則の裏奥義には届かなかったらしく、、、
結末は皆さん御存知の通り。
効率を極限まで追求した社会を擬人化した人物こそ、織田信長なのでは。
ゆとりや無駄、いい加減さを徹底的に排除した社会とは一体どういうものなのか。
果てしない膨張の末のゆっくりとした衰退、そしていつかは迎えるであろう完全なる崩壊。
信長は言わずもがな、今の日本社会もやや効率側に偏ってるのでは?ってこと。
そうは思いつつもヌルいとこはホントにヌルいからなぁ~
それこそ、信長公に締めて欲しい分野なんていくらでもありますもんね。
匙加減が何とも悩ましいところではありますが、要はバランスの問題。

あと斉藤利三、めちゃめちゃ格好良いです。
「定理」のとき良かったけど、今作でもその漢(おとこ)っ振りに磨きがかかってます。
垣根先生、内蔵助大好きでしょ。
大河じゃ誰が演るんでしょうね?
俺的には、内野聖陽さん一押しですねぇ~


ベタと新要素のケミストリー
★★★☆☆