昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

西部劇✕土方歳三『果てしなき追跡』

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逢坂剛

 

「あのッ 土方歳三をッ 西部劇にブチ込むッッ」

↑このコンセプトだけで、丼飯三杯はイケるんですけど。
どこぞのオープンワールドゲームみたいじゃね、いやぁ~逢坂先生、金脈掘り当てましたね。
箱館戦争で重傷を負った土方歳三、新政府の追っ手を逃れるため、有志の手引きによりアメリカへ亡命することに。
もう一人の密航者、英語が堪能な世話係の少女「ゆら」の献身的な介護で、身体の傷は癒えたものの、彼は、記憶を失っていた、、、

箱館戦争~亡命中の異文化交流~サンフランシスコ上陸~何やかんやで西部劇の流れ。
歳三鬼神の如き戦いぶりが描かれるも、正直序盤は退屈。
商船に乗り込んで、周りがアメリカ人ばかりになった辺りから加速度的に面白くなってきます。
やっぱ異文化交流大好物だわ。
記憶喪失とはいえ、武士の誇りは健在の歳三改め隼人(追っ手の目をくらますための偽名)
あのルックスにして、堂々たる雰囲気、そして武道の達人となればもう、ね、出会う人々を魅了していくのは当然の成り行きというもの。
初めは報酬に釣られ密航に協力していた船長たち乗組員も、歳三とゆらの人となりを知るにつれ、真の友情が芽生えくる。
愛刀の和泉守兼定がないと落ち着かなかったり、散々文句を垂れていた洋食(バターが臭いw)も慣れてくるとペロリ、東京という呼び名が気に入らず江戸と言わせたり、片言の英語も相まって茶目っ気タップリ。
この時点でもう逢坂歳三にメロメロ。
何っつーか、やっぱ絵になる男やねぇ~、今まで小説は言うに及ばず、漫画やアニメ、ゲーム、ドラマと色んな媒体で土方歳三観てきたけど、格好悪く描かれたてたこと一回もないんじゃない。

と、メロメロになりつつ、ある程度読み進めていくうち、あれっ!?となるわけですよ。
題名が「果てしなき追跡」にしては、追跡者出てきてなくね?
京都新撰組時代の歳三に恨みがある新政府の役人あたりが出張ってくるもんだとばっかり。
オイオイ追跡者誰よ?と焦れてくる絶妙なタイミングでティルマン保安官登場。
傲岸不遜の差別主義者という分かりやすい悪役。
如何に厳格な法の番人でも、差別主義者という要素を付与された時点で、アメリカが舞台の物語では悪役決定。
さらには、「KKK」をもっと過激にした「QQQ」なる白人至上主義団体も登場。
敵役が悪辣な差別主義者たちなので、小難しい理屈は抜きにして、単純な勧善懲悪ものとして楽しめます。
登場人物を善悪で色分けする“歴史”小説は大嫌いですが、今作は歴史小説に非ず、冒険“時代”小説なんで全く無問題、むしろ気分爽快にサクッと読了。

そうなんですッ!588ページの大長編をマッハで読み終わりまして。
毎時約80ページという過去最高クラスの読書スピードを叩き出すオマケ付き。
アクションものだから描写も軽快、さらに面白ぇもんだから捲る捲る。
 
で、サンフランシスコ上陸後、何やかんやあってw 西部劇になるわけですが、この西部劇になってからがさらにまた面白いッ!!
幕末から明治にかけての日本も歴史の大転換期で、大いにストーリー性に富んだ時代ですけど、同時代のアメリカも負けちゃいねぇ。
南北戦争の余韻が燻り、奴隷は解放されたもののまだ差別が色濃く残る世相。
東西の沿岸部は整然と都市化されたが、未だ中西部の荒野では法と秩序よりも、力と混沌が支配する時代。
ここにッ 我らのッ 副長がッ 単身斬り込むわけですよ。
クゥ~~~辛抱堪らんッッ
白人、黒人、ネイティブアメリカン、そして侍が入乱れての大バトルが展開されます。
これで面白くないわけがないでしょうがッッ

歳三改め隼人(日本刀振り回してんのにメキシカン設定w)と一緒に旅をする黒人少年「ピンキー」がお気に入り。
流石の副長も、英語も禄に喋れないまま西部の荒野に放り出されたら野垂れ死になんで、後半の重要キャラ。
バディものでは、黒人キャラ特有の陽気なムードメーカー。
戦闘力はからっきしながら、機転と交渉術で歳三をサポート。
勿論歳三は黒人に対して微塵も差別意識を抱いてないし、ピンキーも歳三の強さと人柄に惹かれていきます。
いやぁ良いコンビだわ。
そして恨み骨髄、歳三を付け狙うティルマン保安官。
さらに歳三たちを追う者が、、、←成る程、このキャラが「果てしなき追跡」してんのね、納得。って、ちょっとネタバレが過ぎましたね、サーセン

話の面白さもさることながら、西部の街での暮らしぶりの描写、ディティールが素晴らしい。
本当にキャラクターたちと砂塵舞う荒野に紛れ込んだよう。
巻頭の地図と本文を見比べながら、想像が膨らむ膨らむ。
荒くれ者の群れの中に、人情に厚いキャラがいたりするとホントに嬉しくなっちゃう。
いやぁ~マジで旅先の親切は身に沁みるね(←完全に登場人物気取りw)
人種言語は違えども、同じ人間同士、腹を割って話せば解り合えるってもんですよ。

あと上手いなと思ったのは、歳三に含み針の秘技を持たせてるトコ。
いや流石に毎回毎回、和泉守兼定を振り回させるわけにはいかねぇってことで、相手が銃だと飛び道具も必要になってくるし。
まぁ、土方歳三っぽくないっちゃ、ぽくないですけど。
俺は逢坂先生、ナイスアイディアって感心したけどね。
ネットで感想を散見するに、上記の含み針に限らず、今作の歳三が土方歳三っぽくないって批評が少なからず。
俺は逢坂歳三、メロメロだけどなぁ~~

第一部完ってことで、続編の「アリゾナ無宿」と「逆襲の地平線」も絶対要チェックや!と息巻いてたら、アッチが先でコッチが三作目だとッ!?
あの謎の賞金稼ぎの侍って、、、実は土方歳三だったんだッ!!って流れだったのね。
もぉ~~シリーズものは、ちゃんと表紙に明記しといて下さい。マジでお願いします。
 
俺的読書ルール「シリーズものは一作目から」をまた破ってしまった
★★★★☆