昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

老若男女全ての人にお薦めします『サラバ!』

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西加奈子

 

さぁ~~て、、、何から書きますか。
何せ四ヶ月も前なんで、読み終わったの。
っつーか、読了直後でもサクッとは感想書けないと思う。
様々な感情が沸き起こり、混ざり合い、掴み所ない大きな雲の様。
この気持ちを言語に変換して、皆様にお伝えするちゅーのは、コレ、中々の難題ですよと。
し・か・も、四ヶ月前だし(哀) スイマセン、サボってばっかで。
って、「サラバ!」の感想でしたね、ハイハイ。

寡黙な父、自由奔放“過ぎる”母、感受性が豊か“過ぎる”姉。
そんな個性的“過ぎる”家族に振り回された僕「圷歩」、三十七年間の物語。

↑天才だな俺w
主人公の歩君みたく文章の才能あんぞと。
そうなんですよ、歩君に感情移入しまくり。
いやホント西先生、何で俺のこと知ってんの?コレ俺のこと書いてんでしょみたいな。
個性的“過ぎる”家族(俺の場合は父)に気を遣い、自分を殺して目立たないよう且つナメられないよう狭い社会の中で、必死にポジション取りしてる姿なんかまんま俺の幼少期だわ。
子供なんだから子供らしく我が儘ぐらい言わしてくれよと、何でガキの頃から小賢しく空気を読むことを押し付けられなきゃなんないんだと。
こんなに頑張ってんだから、誰かに褒めて欲しい。
思った思った俺も思った。
解るわぁ~歩君、マジで他人とは思えません。
勿論俺ん家は、圷家ほど破天荒じゃありませんでしたけど。

そうなんですッ 出てくるキャラ出てくるキャラ、全員特濃ッッ
奇行を繰り返し歩君を一番苦しめるお姉さんを筆頭に、断固空気を読まないお母さん、地域の顔ゴッドマザー矢田のおばちゃん、幼少期/高校/大学時代のそれぞれの親友たち、ヤコブ、須玖、鴻上。
皆が皆、スピンオフで主役張れるポテンシャル。
いやぁ~~皆愛おしいッ 所詮物語の中だけのキャラクターだとしても、読中は本当に自分の家族や親友みたいに感じてました。
彼らに出会うだけでも、この作品を読む価値は絶対にありますッッ

中でも一番のお気に入りは、高校時代の親友「須玖」
良い奴なんだよぉ~コイツ。
誰にでも公平に接することが出来る超自然体の男。
学生時代、まあ社会人も一緒だけど、人に対する態度って相手の力の度合いに比例すんじゃん。
一番分り易いのは武力、ケンカが強けりゃ取り敢えず一目置かれます。ガキの頃は特にね。
権力、経済力、容姿や性格の魅力。
基本人は、力に吸い寄せられ、その力の恩恵にあずかろうとするもんです。
スクールカーストとまではいかなくても、やっぱ高校生のときはイケてるヤツがチヤホヤされるもの。
俺も学生時代はゲームばっかやってた陰キャだったんで(哀)、「須玖」みたいなヤツの有り難さがよく解る。
で、もう一つ「須玖」の凄いところは、文化的素養の高さ。
アニメや漫画は勿論、映画や洋楽に精通しているところ。
これは歩君にも強烈な影響を与えます。
俺もポップカルチャーに関しては一家言あるぞと大いに身構えておったところ、「須玖」が歩君にお薦めする洋画や洋楽を全く知らず愕然。
嗚呼、俺自慢のサブカル知識は完全にオタク分野に偏重していたんだなと再確認。
こりゃいかんとYouTubeで、♪Curtis Mayfield - Move On Upや、♪NINA SIMONE-FEELING GOODを聴いてみましたとさ。
そもそも趣味なんて、イケてるとかイケてないとかじゃないんですけどね。
好きならハマればいいし、興味ないなら無理することなし。
でもねホラ、やっぱり学生時代はイケてるってことが最重要課題なわけで。
ネタバレになるんであんま言えませんが、この「須玖」は、重要キャラですから注目しといて下さい。

そういや俺って、世の中でイケてるとされてるものをとことん避けてきたなと。
それが趣味だったり詳しかったりするとモテるやつ。
これだけが、歩君との相違点なんだよなぁ~(哀)
あッ、俺はフサフサですけど。
そうなんです、彼歩君、モテモテなんです。
破天荒“過ぎる”家族に振り回されつつも、強かに人生を歩んできた(名前の通りに)彼は、所謂イケてる生活を手に入れるわけです。
クリエイティブな職場に、素敵な彼女(自分が好きかどうかより、他人が見て、アイツいい女と付き合ってるなと認識されることが重要)、自分の才能に周りがチヤホヤしてくれる環境。
この状態に胡座をかく我等が主人公「今橋歩」←両親が離婚、母方の姓を名乗る。勿論このエピソードも波瀾万丈。

で、勿論このままでは終わらない。
むしろこっからが今作「サラバ!」の核心。
あることが切っ掛けで自信を喪失し、人生の歯車がズレはじめる歩君。
イケてる自分から転がり落ち、かつて自分が蔑んでいたイケてないヤツへ。
たった一つの変化で、ここまで人生が激変してしまうものなのか。
このどん底からいかに這い上がるか。
他人からの評価が絶対、承認欲求を満たされることが全てみたいな時期あるじゃん、若い頃は特に。
でもそれって、ホントの幸せなの?

今、悩んでいる人。
今、自分を見失っている人。
今、生きがいを見つけられない人。
人生に漠然とした不安や不満を感じている人は、自分探しの旅に出る前に、是非ともこの「サラバ!」を読んでいただきたいッッ
今作を読んだからと言って、悩みが解決するわけでも現状が好転するわけでもない。
でも、必ず貴方の心に何かしらの波紋が拡がるはずです。
俺も事あるごとに読み返そうと思ってます。
なんとドケチなこの俺が、文庫版を購入致しましたッ!

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証拠写真

これを機に、今まで散々タダで娯楽を提供いていただいてきた文芸界に対して恩返しようと、毎年「今年の一冊」に輝いた作品は購入することに決めました。
そうです、今この時点で既に今作「サラバ!」が2018の「今年の一冊」獲ることはほぼ間違いありません。
まさかこんなにも殊勝な気持ちにさせてくれるとは。
ありがとう「サラバ!」ありがとう西先生。

いやぁ~~ホント人生の教訓が一杯詰まった作品です。
身近な話だけじゃなく社会問題への洞察なんかも。
幼少期過ごしたイランやエジプトと日本での生活の対比。
同調圧力で個性を殺してしまう義務教育や、感情を抑制するあまり人間性が希薄になってしまった日本の閉塞性が、少しも嫌味たらしくなく綴られる。
これが帰国子女の上から目線で、だから日本は駄目なんだみたいな語り口だったら、途端に興醒めなところ。
転げ落ちた歩君の下衆っぷりも絶妙に憎めない感じ。
ここいら辺の絶妙な匙加減を実にッ、解ってらっしゃいます西先生。
ちょっとネタバレになっちゃいますけど、あのキープだと思ってた彼女にフラれるシーンね。
しょーもない、ホントにしょーもないプライドを捨てられないばっかりに、大切なものを失ってしまうというね、誰にでもあるでしょ?自分の気持ちに素直になれないもどかしさ。
あのシーンが心に突き刺さる読者も多いのでは。

兎に角、「圷歩」と彼を取り巻く特濃キャラの三十七年間を描くことで、人生を生きるヒントがそこかしこに散りばめられた作品。
老若男女全ての人にお薦めします。
流石直木賞
ええまあ、直木賞に引っ張られてる感じがして癪なんですけど。
でもね、逆に直木賞獲ってるからって評価を渋っても、それはそれで引っ張られてるわけで。
っつーか、面倒くさい男だねぇ我ながら。

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」

貴子さんありがとう。
ここは素直に自分の感性に従います。


読了二百五十冊にして五年半振り、四冊目の満点
★★★★★