昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

超変化球ゾンビもの『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』

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羽田圭介

 

ゾンビもの。
の、体を借りた社会批判、文芸界の暴露話。

いやぁ~~これはね、問題作ですよハイ。
羽田先生二年ぶり(今作は2017年11月、「顔」は2015年09月に読了)。

ryodanchoo.hatenablog.com全く印象が違うんですけど、ホントに同じ作家さん?
マジか、よくもまあ、こんだけ作風変わるもんだわ。
っつーか、本作も前半と後半じゃ全然違う話みたいになってますけどね。
ゾンビもののパニックホラーかと思いきや、日本が抱えるあらゆる社会問題を切り込んで、出版不況の中でもさらに活字離れで煽りを食ってる「文芸界」を自虐的にネタにしつつ、やっぱり飽きさせないためにはアクションも必要と、サバイバルホラーな一面を見せ付けながら、最後は文学論にまで至るという、まぁ~~盛り沢山な内容。
俺も読みながら、感想が二転三転。
こりゃネットの書評も割れてんだろうなと思ったら、案の定でしたね。

まあ、よーするに、、、

「空気なんか読むなッ!」

ってことですよね?羽田先生、合ってます?
前半の社会批判パートは、結構肯くことも多くて。
例えば図書館批判。
たたでさえ本が売れなくなってきてるのに、図書館で無料で貸し出されたら堪ったもんじゃないと。
そりゃ、出版業界や作家さんからしてみれば確かにそーだわ。
こちとら娯楽を享受しながら、全く対価を払ってないわけですから。
俺も耳が痛い。
図書館で流通することによって新たな読者層が掘り起こされるという側面もあながち否定は出来ませんが、まあ、説得するには弱いわな。
せめて新刊を配架するのは三年待つとかね。作家さん自身に図書館に置くかどうか選んでもらうとか。
双方納得出来るルール作りが出来ればと思います。
又吉先生の「火花」なんか、予約待ち数百件、借りられる順番が廻ってくるのは数年後みたいな状況を目の当たりにするに、確かに生産者側の言い分もごもっとも。
俺もこれからは、年間ベストの一冊ぐらいは購入しようかなと。
っつーか、ココ読んでくれた誰かさんが、おお!この本面白そうつって書店に足を運んでくれたらそれこそ最高なんですけど♪

ハイハイ、感想の本筋に戻ります。
で、こんな感じで様々な問題に切り込んでいくわけですけでも、貧困、生活保護の不正受給、介護、いじめ、原発、etc.etc、あとは、深夜ラジオに大物ゲストが来た際、パーソナリティとリスナーが萎縮する問題とかねw
どれもが的を射ていて、そうそう、やっぱそーだよねと大いに共感しながら読み進んだわけであります。

がッ、流石に疲れてくる。
だって終始、不平不満、批判、皮肉ばっかなんだもん。
やっぱ否定的な意見って、どんなに正論であってもテンション下がるわ。
ね、ルフィ御大の有名な台詞もございます。

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あれが駄目だ、これが嫌いだ、もう無理出来ない←こんな奴に魅力があるはずもなく。
っつーか、現代日本って、そこまで絶望するような社会か???
確かに様々な問題が山積してることは否定しません。
しかし、殆どの国民が最低限度の衣食住は確保しているわけですから。
親や政治や社会の所為にする前に、自分でやれることあんだろうと。
先ずは、この現代日本に、五体満足で生まれつくことが出来た幸運に感謝することから始めいッッと思うわけです。

あ~思い出した。
『東京自叙伝』読んだときと同じ感触だわ。

ryodanchoo.hatenablog.com「保育園落ちた日本死ね」にも通じるものがあります。
激しい言葉で攻撃された瞬間、抱いていた共感や同情が一気に嫌悪と敵意に変わる感じ。
当事者じゃないから深刻さに欠けてると言われればそれまでですが、問題を世に訴えるというのは、当事者じゃない人たちに当事者意識を持ってもらうということではないでしょうか?
挑発的な言動で一時的に世間の耳目を集めても、長期的にみれば悪手以外の何ものでもない。
日本を変えたいなら、やっぱり根底には日本に対する愛情が必要不可欠なんです。
作中保守リベラル問わず腐しまくりで、思想信条的に公平中立なのがせめてもの救い。
これで少しでも右か左に引っ張られてたら、ブン投げてた可能性大。

俺が深読みし過ぎてんのかね。
全然堅い話じゃないですから、急に馬鹿馬鹿しい展開になったりも。
竹槍が対ゾンビ用の武器としてその殺傷力と簡素さが評価され、欧米でオーガニックウェポンと称してセレブに人気とかね。
ホント、全編掴み所が無い感じ。読み手によって全く違う印象、感想人それぞれだと思ういます。
↑でしょ、コレでしょ。羽田先生?
空気を読まず、他人に流されず、世の中のありとあらゆる事象を自分自身の感性で判断しなさいと。
そう、人それぞれなんですよ。
ココでも何度か述べてる通り、「我こそは正義なり」と自分の価値観を他人にグイグイ押し付けてくる輩が多くてうんざり。
何故、お前は間違ってる俺の方が正しいではなくて、君と僕は違う意見なんだね、ふ~~んとはなれないのか。
そーゆーことでしょ?

俺も全く同意見。
法に触れない限り、皆好き勝手生きりゃいいんですよ。
とは言いつつも、なるべく人には迷惑かけないように、ちょっとは空気も読んでほしいなぁ~とは思いますけどね。
まぁ、要はバランスかと。

△▼△▼△▼ネタバレ注意△▼△▼△▼

政府の陰謀で、空気を読む(判断を他人が作った流れに委ねる)人たちが北海道に集められて、本州と隔離される展開は心底ゾッとしました。
怖えぇ、これ規模は違えど、偏向報道やネットのデマ拡散とかで現実にも起こってることだよね。


出版業界のお荷物、最早文芸もゾンビなのか?
★★★☆☆