昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

警察小説の変化球『盗まれた顔』

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羽田圭介

 

羽田先生、第153回芥川賞受賞おめでとうございます(この感想文は2015年09月にl書かれたものです)。
っつーわけで、初対戦。
まだ二十代だって、若ぇ。
基本的に若い作家さんは、あんまイカねぇんだけど。どんなんかな~

警視庁捜査共助課「見当たり捜査班」

こんな部署があったのか!いや~目の付けどころがシャープですね。

指名手配犯の顔を数百人分覚え込み、ひたすら街角に立って行きかう人々の中からその顔を見つけ出す。
大阪で考案されて、それなりに効果も上げてる捜査方法なんだとか。凄ぇなオイ。

新宿、渋谷、池袋。馴染みの繁華街を主人公たち見当たり捜査班の面々が指名手配犯を求めて練り歩く様はスリル満点。
地方の読者は置いてけぼりだが、東京在住の身としては土地勘もあるぶん臨場感が半端ない。まるで自分も捜査班の一員として街を歩き回っているような感覚にとらわれる。
作品の随所に散りばめられている「見当たり捜査」のノウハウも非常に興味深い。
顔の記憶方法、判別方法、声かけのタイミング、呼びかけ方、どの街のどこを攻めるかetc、、、

雑踏の中ですれ違う何千何万という顔の中から、指名手配犯の顔を発見するという森の中で木の葉一枚を見つけ出すような気の遠くなる作業。
巡回→発見→確保
基本このパターンの繰り返しなのだが、街と手配犯の組み合わせの妙で全く飽きさせない。
そして「見当たり捜査」の合間には、捜査共助課という特殊な部署ならではの捜査員の苦悩も盛り込んで話に幅を持たせてくる。
顔を覚える苦労、逮捕した手配犯の顔を“忘れる”苦労!何ヵ月も手配犯を発見できないことに対するプレッシャー。
この街にいるかどうかも解らない人間をひたすら捜すという行為の過酷さ。
だからこそ得られるホシを発見したときの強烈な高揚感と緊張感。
捜査員と同じく読者もこの感覚を共有することになる。

っつーわけで、読めば読むほどそそられる題材なわけですが、他の作家さんはこの金脈を掘り当ててないんでしょうか?
「見当たりモノ」
警察小説の新ジャンルとして余裕でイケると思うんだけど。

さて、ここで素直に四つ星付けて締めりゃいいものをまだあんのよ。ゴメンちゃい。

長編じゃなくて、「見当たり捜査」をいろんなパターンで見せる短編連作で良かったんじゃね?
中盤から公安と中国の密航組織が絡んできてデカいヤマになっちまう。いらねぇっつーのッ!あとウダウダした恋愛パートも。
無理矢理豪華にした期首特番みたい。よっぽど通常放送の方が面白いみたいな。
あと装丁がダサい。黄色ッ?黄色じゃないでしょ。写真の雰囲気全然合って無ぇし。表紙は絵の方が良いって絶対。
親切はありがたいんですが、ふりがな多過ぎ。東京の地名等固有名詞ならともかく、「挨拶」ぐらい読めます。
手配犯を発見した際、他の捜査員に知らせるメールの文面が丁寧過ぎ。切迫した状況なんだからもっと短い文面なんじゃね?

う~~ん、こんなところでしょうか。
文章を読む限り、若さは全然気にならなかった。勝手に年齢制限設けて食わず嫌いすんのは良くないね。
続編は是非、純粋な「見当たりモノ」でお願いします。


読む街歩きの面白さ
★★★☆☆