昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

活字最恐キャラ「木崎」『掏摸(スリ)』

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中村文則

 

裏社会を牛耳る謎の男「木崎」から、仕事を請け負ってしまった天才スリ師の運命。

アメトーーク!』の「読書芸人」とかでも取り上げられてたし、読書家の友人のススメもあって中村先生と初対決。
前から気にはなってたんですよ。華麗な受賞歴といいね、海外でも評価されてるんでしょ。
作品多数なれど、みんな薄いんだもん。二百項前後? もうちょいボリューム欲しいトコ。

本作も薄いなぁ~と思いつつ読み始める。
冷淡で単調、どこまでも無機質な文体。
まるで機械翻訳の文章読んでるみたい。
う~~んと、読書が気だるくなってきたところで“ヤツ”登場、闇社会に生きる男「木崎」

怖えぇぇぇーーッ!

今まで無機質な文章で、淡々と綴ってきた積みがここで炸裂。
暴力という行為に対して嫌悪感を抱くのは、万人に共通するところ。
勿論俺もそう。あらゆる暴力を否定するものである。
でもさ、暴力の源泉が憎悪や憤怒に根差してるものは、肯定することはないにしても、理解出来る部分があることもあるじゃない?

「木崎」

無ですよ。暴力を振るう動機が無い。
まるで部屋の照明のスイッチを入れるみたいに人を殺す。
そこには憎悪を憤怒も何も無い。
敢えて言うならば利益。そいつが死ぬことで何かしら自分が得をする、これだけ。
何の恨みもない人間を、全く感情を動かすことなく消す。
このどこまでも乾いた恐怖が、先の無機質な文章で怒涛のように読者に覆い被さってくる。

かつて活字最恐と称した、『ぼっけえ、きょうてえ

ryodanchoo.hatenablog.comこの土着的因習に雁字搦めに縛られた、まさに日本的なジメジメと纏わり付くような湿った恐怖とは対極。
恨み怨み妬み嫉み、憎悪と憤怒、あらゆる負の感情でグチャグチャに煮詰まってる恐怖。
ぼっけえ、きょうてえ』の感想でもちょこっと触れてるが、今作で感じた恐怖は、これとは全く異質のモノ。
同じ怖いという感情でも、ここまで差が出るもんかねぇ~~、いや面白い。

でもね「木崎」 、後半喋り過ぎ。
黙って佇んでるのが一番怖いのに、最後の演説ぶった遣り取り、台詞の横に強調する点まで付けて、あーあ。
俺が日本を変えてやるって、、、一気に小物臭が、、、
でもまぁ、良かった。最後に欲望という人間っぽい感情が見れて。
あの前半のままのキャラだったら、いっとき俺の心に居座り続けるでしょ、ゴメンです。

っつーわけで、「木崎」のキャラが強烈過ぎて他の部分、スリのテクニックとか虐待されてる子供と主人公の交流とか、あんま引っ掛からずあっさり流れてしまいました。


兄妹篇の『王国』も要チェックや
★★★☆☆