昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

凄まじい暴力描写『ブラック・ドッグ』

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葉真中顕著

 

ここ最近一番ハマってる作家さん、葉真中作品は以後続々登場予定です。

全ての動物は平等である。「種差別」の克服を標榜する超過激動物愛護団体「DOG」
悪徳ペット業者が主催するペット即売会会場を封鎖した彼らは、そこに十二匹の“魔獣”を解き放つ。

凄まじい暴力描写。
活字で気分悪くなったの久し振り。
いや葉真中先生ヤってくれます、参った。
基本はサバイバルパニックホラーってことになるんでしょうか。
封鎖されたイベント会場で謎の獣が暴れ回る。逃げ惑う人々、君は生き延びることが出来るかみたいな。
謎の獣→闘犬のピットブルを想像してもらうと近いかと。
こいつの正体も話の核心になってくるんで、詳しく説明出来ないのが辛いところ。
超大型のピットブルが十二匹ですよ。それが問答無用で襲ってくるわけ。
特定の主人公は立てず、群像劇の様相。
誰がヤラれ、誰が生き残るのか?
普通読者はこの思考に沿って、読書を進めていくんでしょうが、、、


△▼△ちょっとネタバレ▼△▼


自衛隊レンジャーあがりの作中最強キャラがいるんですが、当然コイツを軸に主要キャラが寄り添ってサバイバルしていくんだろうなと思ったら、いきなりヤラれちゃうっつーね。


△▼△ネタバレ終了▼△▼


葉真中先生ヤってくれます。
オイオイオイ、あと悪役と中学生と女性キャラぐらいしか残ってねぇーぞみたいな。
と、序盤で予想外の展開を見せるわけですが、このキャラクター陣が実に良く練られてるというか。
テロを起こす「DOG」メンバー、細々と動物愛護活動を続けきた女性SE、イベント会場で合唱を披露する予定だった中学生たち、悪徳ペット業者社長、動物と話せるという人気タレント、激しい上昇志向をもつ好漢。
主要キャラだけでもこんだけいるのに、捨てキャラ一切無しッ!
それぞれに見せ場があって、役割がちゃんとあります。
どこぞのお芝居みたいですねw

何と申しましょうか。
善と悪の境界線が非常に曖昧ちゅーか、何ちゅーか。
正義の反対は悪ではなく、もう一つの絶対に相容れない正義だっつーか、何っつーか。
自らの思想信条を社会に認めさせる為に、何の罪もない人々を残虐な方法で殺しまくる。
圧倒的憎悪の対象になるはずのテロ組織「DOG」
しかし彼らの主張に触れたとき、単純に割り切れない考えが芽生えたのも事実。

そもそも我々人間は、自らの社会生活を営む中で、動物たちの生命や権利を我が物の様に扱っているが、それは一体全体どのような正当性を持って行使されているものなのか?

自然環境の中で自由に生きている動物たちを、狩りや漁と称して捕獲する。
人間に食べられるだけに生まれてくる牛や豚。
生活の糧ではなく人間に娯楽を提供するため、速く走れるよう品種改良された馬。
愛玩と奴隷の差はどこにあるのか。
もし彼らに知性があり、人間に待遇の改善を要求してきたら?

単純なパニックアクションものかと思ったら、大間違い。
非常に深刻なテーマを読者に突き付けてきます。
これまで、「シーシェパード」の過激な反捕鯨運動のニュース等を苦々しく見てたんですけど、新たな視点が追加された感じ。
勿論「シーシェパード」には微塵も共感してません。
牛や豚はいいんです、鯨やイルカは頭が良い動物だから食べちゃ駄目って、まさに「種差別」そのものじゃん。
只、世の中にはいろんな考えがあって、アレが正しい、コレは間違ってると安易に線引き出来ねぇぞって話。

言うまでも無いことですが、テロリズムを容認してるわけじゃありません。
暴力に訴える行為は絶対に許されないことです。
しかし対話で問題を解決しようとなると、とてつもない時間がかかるのも事実。
例えば戦争反対、平和主義。
その通り、俺も異存ありません。
じゃあ、ヒトラーユダヤ人迫害を連合軍の武力行使なしで止められたかと問われればどうでしょうか。
世界平和のため、対話でヒトラーを説得する間、ユダヤ人は迫害に耐えてくれと。
収容所でガス室行きの順番を待ってるユダヤからしてみれば、武力行使でも何でもして一刻も早く救い出してほしいはず。

重ねて言いますが、テロや戦争を肯定してるわけじゃありません。
偉そうに問題提起してますが、結局のところ対話しかないんです。
只、只ね、「今一番苦しんでる者の身になって考える」ってのは、大事な視点だと思いますよと。

今作の場合は動物の権利ですね。
その点、「DOG」の主張に一部肯く部分があるちゅーか、何ちゅーか。
いじめ問題とかね、学級会で皆で話し合いましょうとか、ふざけんなっつーのッ!
先生がいじめっ子ぶん殴ってでも止めさせろと思うわけです。
アレ!?さっきと言ってること違うぞと。
そうなんですよ、俺も含めて人間には過激な部分があるということを、よくよく戒めねぇと痛感したわけであります。

作中過激な「DOG」と並列して、穏健的な動物愛護の考え方も出てきます。
家畜のストレスを減らすような畜産方法だとか、遺棄ペットの里親を探す運動だとか。
皆の意識も高まってきて、少しずつ少しずつ状況は良くなってきてると。
かつては人間同士でさえ、肌の色や宗教、身分や出自で差別し合っていたが、それが長い、長ぁぁぁ~~~い歴史を経て改善されてきて、今も少しずつ改善されてるように、動物に対する人類の認識も変わってくると。
そーなんです。あらゆる問題は、対話や啓蒙によって少しずつ改善していくしかないんです。

がッ、「DOG」は待てねぇぞと。
さっきも書きましたが、全員キャラが立ってまして。
知的な紳士然としたボスも中々に魅力的ですが、裏ボスがもうね。
そもそもイベント会場を封鎖してテロ起こしても、すぐ警察を呼ばれて解決だろと突っ込まれるところですが、この裏ボスがね、うん、えげつねぇモン引っ張ってきたなと。
作中「DOG」は、素人キ○ガ○テロ集団と世間から認識されているのですが、とんでもない。
裏ボスの人類を超越した(←ネタでもなんでもなくマジ)能力により、世界を支配する力を
有してるんです。
警察は勿論、自衛隊だろうが米軍だろうがCIAだろうが、「DOG」を壊滅させるのは無理。
「DOG」は有無を言わさず人類に、「種差別」の克服を強要することが出来るんです。

し・か・し、そこは葉真中先生、人類側にも微かな希望を残してますけど。
それは、いじめをやめることであり、差別を根絶することであり、多種多様な価値観を認め合うことなのです。
裏ボス曰く、人類には無理でしょ?まぁお手並み拝見ってことでしたけど。

ああッ!?ヤってやろうじゃねぇーーかッ!!なあ皆。

先ずは肉食をやめるとこからっと。
え?肉を食う自由?これも多様な価値観の一つだろ?って、、、まぁそうですよねぇ。
いや、、、あの、、、動物にですね、、、苦痛や恐怖を与えることなくですね、、、全世界で生産される穀物だけで全人類の消費カロリーは賄えるとうデータもあり、、、

とまあ、小難しい相容れぬ正義の話はおしまい。
軽い感想をザザっと。
もう一方の悪役、悪徳ペット業者の社長、こいつがねぇまた魅力的なんよ。
「DOG」みたいな理念があるわけじゃなく、正真正銘純粋百パーの悪。
動物=金儲けの道具、真っ先にテロられる人物のはずが、手強いっつーね。
数ある残酷描写の中でも、一番胸糞悪かったのが、コイツが運営する「子犬工場」の場面。
たった数行の描写ながら、読者をやや「DOG」寄りにする効果十分。
俺も、許せねぇこの外道があぁぁと憤ったものの、何故か魅力的な葉真中マジック。
自分の欲望に忠実というのも、ある意味思想信条を貫徹してるという面では認めるトコがあるものなのか。
百パーの悪に対抗するかの如く、偽善者が配置されてるのがデカいかも。
そうなんです!先に述べた通り、捨てキャラ一切なし。
さっきのいじめの話、唐突でした?
中学生グループがコレ担当なんです。
あの小難しい相容れぬ正義を、思春期のモヤモヤした中学生生活に準えてるっつーか。
上手いッ葉真中先生。いやぁ~~計算され尽くしてます。
もうね、次の作品読むのが怖いです、ハードル上がり過ぎちゃって。


強烈な残虐描写のオブラートに包まれた深淵なるテーマ、とても消化はしきれませんが、ことあるごとにその苦い味を思い出すことでしょう。
さてと、三時間以上書いて疲れました、ここまで読んでくれてありがとう。


お薦めしないお薦め
★★★★☆