昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

時限爆弾持たされての読書『怒り』

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吉田修一

 

八王子で発生した夫婦惨殺事件。犯人が逃亡したまま一年が経過しようとしていた。
東京で病気の母を気遣いながら真面目に働くゲイの青年、千葉でひたすら娘の幸せを願う漁協勤めの熟年男性、トラブルメーカーの母のせいで日本中を転々する女子高生。
それぞれつつましやかに暮らす人々のもとに、経歴不詳の謎の男がふらりと現れる。

上巻は各キャラクターの日常を丹念に描き、読者の親近感を引き付けるだけ引き付ける。
各々悩みや不安を抱えながら、幸せを掴もうと生きる様をじっくり読み込むことによって、あたかも知人の悩み相談にのっているかの如く、それぞれのキャラクターの人生の好転を願っている自分に気付かされてハッとすることになる。
しかし読者は読み始めた時点で既に予想している。予想してしまっている。予想させられている。
「怒り」というタイトルを冠している以上、凶悪な殺人犯が逃亡中という設定である以上、今読んで親近感を抱いているこのキャラクター達の日常が近いうちに必ず崩壊するということを。

もおぉ~~勘弁して下さいよ吉田先生、読んでて辛いッ!
時限爆弾持たされて読書してるようなモンでしょコレ。
東京か千葉か沖縄か、、、こん中に絶対殺人犯が紛れ込んでだから。まるで読書のロシアンルーレットじゃん。
俺は千葉の父娘に一番感情移入してたんで、わあぁ~~千葉だけはやめてくれーッつって読んでましたけど。
実は時系列がズレてて、三箇所全部犯人じゃね?と邪推してみたり。
そもそも「怒り」というタイトル、作品冒頭に凄惨な八王子夫婦惨殺事件の描写があって、当然これ程惨たらしい殺し方をするんだから、犯人側にもそれ相応の理由、動機があって「怒り」が頂点に達しての凶行だと当たりを付けて読書を進めていくことになるのだが、、、

いやぁ~~打ちのめされました。
一年に何作品か、こーゆー作品に出合いますけど、うん、ヤラれましたね。
タイトルの「怒り」とは?
その本当の意味に触れたとき、読者の誰もが心を揺さ振られると思います。
暴力や無理解に対する怒り、苦しんでいる者に何もしてやることが出来ない怒り、愛する者を信じきることが出来ない弱さへの怒り、信じていた者に裏切られたときの怒り、そして、、、

△▼△おまけ・映画化について▼△▼

(この感想文は、2016年07月に書かれたものです)

映画化らしいっスね。
こッから先、勘の鋭い人はネタバレになっちゃうかも?
超豪華キャストじゃん。各キャラ中々特徴捉えてんじゃないすか。
さて、ヤツはと、、、うわッ凄ッ!これは嵌り役、ドハマリ。
コレこの表情ッこの顔出来るか、参ったね。
もうド畜生の腐れ外道にしか見えねぇっつーの。
ヒット間違いなしじゃね?


記念すべき200冊目見事
★★★★☆