昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

シリーズものは表紙にハッキリ明記していただきたいッ!『もののふの国』

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天野純希著

 

鎌倉から幕末、武士の時代を描いたオムニバスかと思いきやそれだけに留まらず。
文芸誌の創刊を記念して展開される「螺旋プロジェクト」の一環だとか。
毎回言ってますが、シリーズものは表紙にハッキリ明記していただきたいッ!
スタンドアローンとはいえ、抜き取り読みは我が読書哲学に反します。

原始の太古から遥か未来まで数千年に亘りでこの国では、海と山の一族の争いが歴史の闇の中で繰り広げられていた。
その全貌を人気作家たちがリレー形式で書き綴るのが「螺旋プロジェクト」、そしてその中世・近世編が今作という流れ。

「螺旋プロジェクト」?
知ったこっちゃねぇッ!兎に角侍の話読ませろやッ!と少々憤りつつ読み始めると、、、これが案外良い感じにハマってまして。
源平~南北朝~戦国~幕末と、それぞれの時代の英傑たちが海と山の一族で、その争いが歴史を切り拓いてきたと。
このね、海と山のチーム分けが絶妙。
初めはピンとこなかったんだけど、読み進めていくうちストンと腑に落ちましたね。
源氏が山となれば当然平家は海、信長が海で明智は山、新選組が山だから維新志士は海と、後付にしては恐ろしいほどのハマリ具合。
ざっと説明しますと、、、
海が革新・進歩・混沌、山が保守・維持・秩序といった案配。
何か納得させられません?
腐敗した権力を倒す戦いが起こる、新しい時代を創造してそれを維持していく。
しかし長く続く平和の中で権力が腐敗していき、、、の繰り返し。

大いなる時代の流れ、人智を超越した歴史の意思。そこに善悪の概念は無い。
ただ時を前に進めるのみ。
この“時”選ばれた特別な人間こそ、源頼朝であり徳川家康であり西郷隆盛なのです。
一カ所に留まった水は澱み腐る。水は常に流れ続けなければならない。
たとえ激流の渦に呑まれる者がいたとしても。
まさに諸行無常

自分で言うのも何ですが多少の歴史知識はありますんで。
あの武将は海、この侍は山だろうと当りを付けて読み進めるわけです。
ここで面白いのは、海/山 以外の、「長老」と呼ばれる第三勢力?存在。
審判と言いますか、傍観者と言いますか、選ばれし者の行動に躊躇いがあるときに歴史を動かすため背中を押す役割といいますか。
この存在のお陰で、本来ならばベタに終始するはずの 海/山 予想にヒネりが加わって面白かったです。
アイツがココでこの役割? こうキタかぁ~~みたいな。

天野先生とは今回初対戦、非常に読みやすく王道な感じ。
歴史小説好きとしては、当然要チェックな作家さんですよね。
遅くなりました、これからも宜しくお願いします。


大塩平八郎 お気の毒様
★★★☆☆