昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

成上がりモノ初体験『骨の記憶』

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楡周平

 

集団就職で上京した東北の貧農出身の「一郎」

名家の跡取りで地元に残った「弘明」

東京と岩手で離ればなれになった親友同士は、絶対に口外できない“ある秘密”を共有していた、、、

 

成上がりモノ。
転落モノはあんだけ読みまくってんのに、そういえば成上がりモノは殆ど読んでないなと。
貧乏に落ちる話ばっか読んでどうすんの?たまには金持ちになる話も読まんと。

楡先生とは初対決ですが、今回ガッツリ掴まれまして。
まだ一作しか読んでないけど多分相性良いと思う。
っつーわけで、全編陰鬱な話でかなりの分厚さにも関わらずサックリ読了。

暗い雰囲気を纏った作品とはいえ、舞台となる戦後の高度成長期は、日本が一番元気な時代でもあるわけで。
やっぱエネルギッシュですよ。
出自と貧しさがコンプレックスの主人公一郎、日本が豊かになっていくこのタイミングを見逃すことなく己の知恵と才覚を全ベットしていきます。
そこに偶然舞い落ちる「運命の悪戯」
読者は劇的なこの男の一生を追体験することになります。

今まで読んできた転落モノ同様、主人公はあらゆる職業を転々とするわけですが、この職業疑似体験、それぞれの職場の於ける蘊蓄・ノウハウが抜群に興味深い。
今回の一郎は、集団就職で上京~中華料理店の雑用~運送会社勤務~運送会社経営~投資家という流れ。
いささかレベルアップが早過ぎる気もしますがそこはそれ、先述の「運命の悪戯」&一郎自身のスペックの高さ故。

そーなんですよ。この「運命の悪戯」っつーやつが話の肝なんですが、ホレあんま言うとネタバレになっちゃうから。
だもんで核心部分はぼやかしつつ、、、
まさに人生の岐路。一郎自身も重大な決断を迫られるわけです。
このシーンの緊迫感は読み応えありますよ。
そして「運命の悪戯」発動。
あらぬ方向でカッチリ嵌まった幸運の???歯車が、本人も制御出来ない程に高速回転し始めるわけです。
こうなってくるとコッチもグイグイ読まされます。
もぉ~~捲る捲る。続きが気になっちゃって堪りません。

だがしかしッ単なる成功譚じゃないから。
実は、序盤で既に時限爆弾がセットされてるんです。
頑張って努力してお金持ちになった→ハッピーエンドとはなりえない。
当然読者は一郎の成上がりを追体験しつつ、どういう人生の経過を辿ってアレを炸裂させんだ?という一点でクライマックスに向けて猛烈に引っ張られるわけで。
中盤一郎に束の間の平穏が訪れますが、嗚呼このままじゃ終わんないだよなぁと何とも言えない気持ちになってみたり。

本当の幸せって?
愛か金か、、、
ねぇ~~、また来たよこのテーマw
裕福な家に生まれ愛する人を娶った弘明、だが事業に失敗し借金に追い回される日々。
極貧生活から己の才覚と「運命の悪戯」で巨万の富を得た一郎、しかし誰からも愛されない孤独。
う~~ん、どっちが幸せなんでしょう、、、ん?どっちが不幸か、、、
少年時代を共に過ごした親友の人生を隔てた愛と金、そして炸裂まで確実に時を刻み続ける時限爆弾。
タイトル『骨の記憶』とは?
あとは貴方が確かめて下さいッ!!

最後にちょっと苦言。
主人公一郎の親友弘明ですが、所々“弘信”と誤記されてるんですが→ハードカバー版。
重要キャラ名を間違えるとはありえないミス、校正さんしっかりして下さい。


楡先生、先発ローテ確定
★★★☆☆