昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

Ghost of Tsushima 超面白そうですね♪『異国合戦 蒙古襲来異聞』

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岩井三四二

 

定番の歴史枠。今回は戦国でもなく幕末でもなく、「元寇」です。

日本史の一大スぺクタルの割に、あんまフューチャーされてないよね「元寇
読者諸賢におかれましても、神風で船が沈んだぐらいしか知らねぇんじゃね。
っつーわけで、良い機会だから俺もガッツリいっとこうかなと。いつも戦国ばっかじゃ芸がないんでね。

主人公は、「竹崎季長
皆も歴史の教科書とかで一度は目にしたことあんでしょ?写真見て、この人この人。

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ホレ、右端の騎馬武者ね              ↑↑↑

この絵巻物書かせた人物こそ文永・弘安両役で活躍した肥後の御家人竹崎季長」その人なのである。
季長が絵巻物を後世に残してくれたおかげで、中世日本の一大事「元寇」を文字だけでなくヴィジュアルイメージとして捉えることが出来ると、サンクス季長公。

竹崎季長の前線九州パートを軸に、執権北条時宗・御恩奉行安達安盛の鎌倉政治パート、元帝国に屈服した高麗の悲哀パート、そして皇帝フビライ・カーンの元本国パートと多元構成、双方向からの視点で文永・弘安の役を活写。

前線で敵と相まみえる恐怖、熾烈な政治・外交の駆け引き、上に立つ者の辛さ、蹂躙される被征服者の惨状。
様々な感情が渦巻く過酷な戦場譚だが、全編を通してカラッとした爽快さが貫く。
やはり、あらゆる困難に完全と立ち向かう主人公「竹崎季長」の存在がデカい。

やっぱ九州弁は良かねぇ~~「ばい」・「たい」言いよるだけで、何か一本気の熱か漢(おとこ)っち感じのするもんねぇ~~

戦場で勇敢に戦うだけでいいってわけじゃないのよ、良い鎧が欲しい、馬がいる船がいる、部下もいないと心細い、、、となると、先立つものはやっぱりお金。
文永の役の時の手柄を認めてもらいにわざわざ熊本から鎌倉まで直訴に行くんだけど、勿論旅費もかかる。頼みの綱の兄も親戚も冷たい。とにかく世の中金、金、金です。
いざという時の親戚縁者の頼りなさ。特に金絡みの時!
そして、そんな窮地に救いの手を差し伸べてくれる人の有難みね。

実は俺も過去、金が絡んだときの親族の冷淡振りと、こんな時でも助けてくれた友人の優しさを実感したことがあるんでね。
九州弁の愛らしさといい竹崎季長、遠い歴史を隔てた赤の他人とは思えません。
いやぁ~~何つーか、八百年前も今も、人の世の悩みっつーのはあんま変わらんね。

そうそう、戦闘シーン以外が結構面白いのよ。
鎌倉直訴までの旅の様子や、領地経営の苦労、妻妾に気を遣う有様なんか、日常生活が活き活きと描写されてて引き込まれたね。最初は日常パートなんかやってんじゃねぇッ!こちとらチャンチャンバラバラが読みたいんじゃって感じだったのに。

そして何より、元帝国に征服された高麗の悲惨さ。
いやホントマジで、海よありがとうだぜ。
もし日本も大陸と陸続きだったら、朝鮮半島みたく徹底的に国土を蹂躙されていたことでしょう。
超大国と陸続きっつーのは、とんでもない地政学的リスクだな。
もう一回言っとく、海よありがとう。
まぁそん代わり幕末期には、日本全周を防衛しなきゃなんなくなんですけど。
高麗パートも前線の兵士描写と政治描写に分かれてて、それぞれこれでもかと悲惨さ過酷さが描かれてます。
大量の船を造るため国土を禿山にされて、やりたくもない戦争に駆り出されて、最後は台風に巻き込まれて海の藻屑。悲惨過ぎる。
この元の時代に限らず、朝鮮半島が歩んできた苦難の歴史を鑑みるに複雑な気持ちになります。
最後にもう一回、海よありがとう。

で、神風神風、台風で勝ったっつってけど、それだけじゃないかんね。
そりゃ止めを刺したのは台風だけど、鎌倉武士の強さってのも勿論あったわけで。
上陸は許したものの、日本軍の頑強な反撃にあって橋頭保が築けず、船で待機してる間に台風がやってきたわけですから。
騎馬隊主力の蒙古軍精鋭ではないとはいえ、当時世界最強の元帝国を二度も撃退したわけですから、こりゃやっぱ愛国心の如きものを刺激されますわな。
禅宗の僧侶を経由した高度な諜報戦も描かれてて、おお日本強いじゃん♪って感じですよ。
まぁ、これ以降驕りを重ねていった結果が、先の大戦の大敗北の遠因になっていくわけですが、、、そして二度目の神風は吹かなかったと。

とはいえ、日本の武士が強かったのは事実ですから傲慢になることなく、かといって運だけで勝ったと卑下することもなく、冷静に歴史を俯瞰することが大切だと痛感します。
日本最初の国難といわれる「元寇」、これ以降幕末・敗戦と続き、今まさに第四の国難ともいわれています。
過去を振り返り歴史を学ぶことは、現代を生き抜く重要なヒントになるのでないでしょうか。
(あッこの台詞、前も宣ったな、、、)


やっぱ日本史って面白い
★★★☆☆

 

パイロットではなく整備兵視点の特攻『翼に息吹を』

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熊谷達也

 

「特攻」
この言葉を噛み締めるとき、俺も日本人ある以上、相反する様々な思いが駆け巡る。
驚愕、同情、憐憫、尊敬、感謝、恐怖、嫌悪、、、
究極の自己犠牲の美しさと、人間の命を機械の部品のように使い捨てた醜悪さが同居しつつ迫り来て、戦後七十年を経た今でも我等日本人の心をかき乱し続ける。
祖国を守る為、勇猛果敢に散っていた英霊と称えられれば、う~んと唸りたくなるし、だからといって、軍国主義に洗脳された可愛そうな人達みたいな言い方も絶対に納得できない。
求めるのは、美化でも卑下でもなく真実のみである。

昭和二十年、鹿児島知覧基地、主人公は特攻機の整備将校、須崎少尉。
特攻隊員ではなく、整備士からの視点。
パイロットではなく一つ間を空けることで、特攻に対する俯瞰的な描写に成功している。
自ら敵艦に突っ込むことはないとはいえ、過酷な特攻作戦の歯車の一部であることには変わりない。
丹精込めて整備した飛行機が、明日には木端微塵になってしまう。
そしてそれには人間が、決して生還することがない命令を受けた人間が乗っている。
改めて特攻の過酷さ、異様さが浮かび上がってくる。
生き残るためでもない、空中戦で勝つためでもない、必ず死ぬ人間が乗る戦闘機を整備する気持ちとは、如何ほどのものであったろう。

決死の覚悟を定めた隊員の乗機に、万一の不備もあってはならない。
連日の出撃で溢れ返る整備待ち機。
届かない部品、粗悪な潤滑油・燃料。
理不尽な命令。
整備不良で出撃できない隊員から浴びせられる矢の催促。
須崎少尉の抱えるストレスがひしひしと伝わってくる。
前線ではない後方の整備兵とはいえ、戦争というものはこれほど過酷なものなのか。

特攻の感傷的な話ばかりではなく、整備の観点から技術面の言及も多い。
主人公須崎が主に整備を担当する機体、三式戦闘機「飛燕」は、高性能だが非常に整備し辛い液冷エンジンを積んでいる。
俺も技術屋の端くれなんで、ここいら辺の描写は大いに納得することしきり。
開発・設計部門が、性能の追求に躍起になって、生産性やメンテナンス性が後回しになるのはよくあること。
いかに高性能でも稼働しなければ意味がない。
日用品でもそうなのだから、生死を分かつ兵器となれば尚更のこと。
修理しようにも部品が届かない、届いたとしても動員された女学生が加工した部品では、精度が全く出ていない、潤滑油は使い回しが過ぎて真っ黒。
連日の徹夜で疲労困憊の整備兵、これに食料不足の栄養失調が重なり、基地内に赤痢が蔓延する始末。
いかに上層部が徹底抗戦だ、精神力だ、努力と根性でカバーしろと煽り立ててもこれでは勝てない。
詰まる所、近代戦は国家の総合力で決まる。
撃墜された敵戦闘機グラマンを回収した折、漏れ出てきた蜂蜜のような潤滑油をみて、須崎が戦争の行く末を諦観するシーンがあるが、このエピソード等はその最たるものであろう。

特攻作戦の理不尽かつ感傷的な描写と、整備兵技術屋蘊蓄の二本柱で進行しつつ、中盤この物語の核心、特攻隊員・有村少尉が登場する。
何度出撃しても、整備不良を理由に引き返してくる有村少尉。
仲間から卑怯者、臆病者と罵倒されながらも出撃し、徹底的に整備・検査した機体でまたもや帰還してくる。
本来ならば部隊の士気低下を懼れ、後送されるはずなのだがそれもない。
彼は何故戻ってくるのか?
ただの臆病者、命を惜しんでいるだけなのか、それとも別の何かがあるのか?
今作における核心ともいえるこのエピソードが、どうにも曖昧でハッキリしない。
この結末をどう捉えるかで、今作の評価が別れるのでは。

と、書きつつも、有村少尉は単なるエピソードの一つに過ぎず、物語の核心はやはり「特攻」とは何だったのか?ってことなのか、、、
確かに今、感想を纏めるに、有村少尉の結末に拘り過ぎてるような気がする。
「特攻」という歴史に対し、賛美でも卑下でもなく、整備将校という一歩引いた立場から淡々と綴った今作は真実に一番近付いているのではないだろうか。
俺も今ここで、したり顔で感想を述べてはいるが、帰するところ作中須崎が言うように、「特攻」に於ける本当の真実を語れるのは、南海に散っていた方たちだけなのだろう。

>「最後に、尊い命をなくされましたすべての特攻隊員の皆様のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。」
巻末謝辞より引用


また、知覧に行きたくなりました
★★★☆☆


<おまけ>

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調布の掩体壕。 散策中に偶然発見。
壁画に表紙と同じ機体、「飛燕」が描かれてるの解ります?

対立と和解の物語『64(ロクヨン)』

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横山秀夫

 

超メージャーな大ベストセラー決め打ち。
映画化ドラマ化、数々の受賞歴、アマゾンに於ける絶賛。否が応にも高まる期待、上げまくるハードル。

 

昭和64年に発生した誘拐殺害事件を巡り、県警内部で刑事部と警務部の激しい派閥争いが勃発、広報部の三上は県警という巨大組織の中で細心の舵取りを迫られる。

 

対立と和解の物語。
刑事部と警務部、地方と中央、キャリアとノンキャリ、公と私、父と娘、、、
そして、真実を覆い隠すことによって保たれる安寧と、それを曝け出すことによって生じる混沌。
自ら信じる正義を貫くことが果たして最善の道なのだろうか?

いやぁ~疲れた、読み応え充分。
兎に角、登場人物膨大にして警察組織難解。
巻頭に登場人物一覧と警察の組織図希望。情報量パンク。
敵/味方、部署・階級・肩書きがごちゃ混ぜになって、キャラ再登場時「えぇーーっと、コイツは、、、」頻発。
唯でさえ多過ぎる警察関係キャラに加え、事件の容疑者、被害者、マスコミ関連、それぞれの家族ともういっぱいいっぱい。
プ・ラ・ス、本編も、昭和64年に発生した未解決誘拐殺害事件を軸に、情報開示を巡るマスコミとの軋轢、警察内部の派閥争い、主人公の娘の家出等が複雑に絡み合う展開。
いやぁ~疲れた、マジで。

しかしまぁ~巨大組織っつーのはどこもそーなんだろうが、ねぇ、どーして、こう派閥で固まって内部で争うかね?
歴史を例にとっても、豊臣政権然り、旧日本軍然り。枚挙にいとまが無い。
内部の足の引っ張り合いほど敵を利するもんは無いっつーの。
警察の敵は外、犯罪者共だろッ!とフィクションに対し憤りを禁じ得ない始末。
とはいえ、現実もコレに近いんだろうなぁというリアリティ。
だとしたら、とんでもない無駄な労力を内側に割いとる訳で。

マスコミ対応なんかも、読んでてもうイライラ。
錦の御旗報道の自由、国民の知る権利を付託されたメディアの容赦ない正義感っつーか、何つーか。
捜査の進行上、開示できる情報は自ずと限られてくるのは当然。
それを、だだっ子をあやす様なマネまでせにゃならんとは。恐れ入ります。
勿論主人公が県警の広報官なんで、そちらサイドからの描写という側面もあろうが、あんなことまで警察の仕事とはね、正直驚きました。

煩わしいことに係わず、正当な業務のみに専念出来る環境。
警察に限らず、巨大組織に生きる以上、上記のような状態に達するのは夢物語なんでしょう。
しかし、煩雑な人間関係を御することで養われる人間力っつーのも確かにある。
主人公三上義信、働き盛りの46歳。渋い渋いねぇ。
組織の中で揉まれてるだけあって、年相応の渋みが醸し出されてます。
俺、酸いも甘いも噛み分けたオッサンキャラ大好物なんで。
っつーか、登場キャラの八割九割オッサンですけどw
やっぱねぇ、チャラい若僧に出せない人生の重みがありますよ。
俺もさぁ、歳は同じくらい重ねてっけど、ホラ人生経験が(哀)
これまで人生の艱難辛苦に真正面からぶつからず、楽な方楽な方へ逃げてきたから。
本来刻まれてるべき年輪がツルッツルッなんです(哀)
だから渋いオッサンキャラには正直憧れます。

中でも俺のイチオシは、D県警捜査一課長で参事官の松岡勝俊。
渋いッ渋過ぎますッ
部下には自由にやらせて、責任は俺が取るみたいな理想の上司タイプ。
読了後すぐに映画版とドラマ版のキャスト確認しましたよ。
三浦友和さんと柴田恭兵さん。
う~~ん、三浦友和さんは本庁のキャリアのが似合いそうだし、柴田恭兵さんはやっぱ「セクシー大下」でしょ。あッ、あぶ刑事ねw
って、本の感想じゃねえぇぇぇッッ!

本作、「D県警シリーズ」の第4作目なんだってね。
それぞれ独立してるとはいえ、俺、シリーズものは一作目から読みたい派なんですけど。
副題にちゃんと「D県警シリーズ」って明記してほしい。
超重要キャラ二渡真治の印象が随分違ってくるんでしょ?ミスったわ。

未解決誘拐殺害事件の真相はやや強引な感じを受けたし、他の様々な問題も解決には至らない。
しかし激しい対立から、それぞれが一歩を踏み出したのは確か。
そして最後、三上が下した決断。
重厚な読書に疲れ果てた俺に、爽やかなる一陣の風が吹き抜けた。

っつーわけで、今回も取り留めの無い感想になってしまいました。

上げ過ぎたハードルの下を潜ることはありませんでしたが、勢いよく飛び越えることも出来ませなんだ。


ハードル上げ過ぎ
★★★☆☆

凋落の新選組『一刀斎夢録』

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浅田次郎

 

『一路』で

ryodanchoo.hatenablog.com「2015 今年の一冊大賞」を獲った浅田先生と新選組三番隊長・斎藤一、最高の食材を希代のシェフが調理して不味い料理が出来るわけがないッ!

うん確かに美味い、美味いんだが、、、
読書も十年続けてると、最初の頃の感動が薄れてきたというか、、、
本を読み始めた頃で、この面白さだったなら文句なしの四ツ星なんだろうが、、、

大正時代、年老いた斉藤一こと“一刀斎"が、若き陸軍中尉に語る、新選組の真実。

浅田先生十八番の昔語りスタイル。
読者は陸軍中尉梶原になりきって、一刀斎の昔語りに聞き入ります。
京都時代の新選組最盛期ではなく、鳥羽伏見以降がメインなので気が滅入る負け戦の話ばかり。
もうね惨め、悲惨の窮み。
やっぱどうしても華やかな京都時代のイメージが焼き付いてるもんですから、この惨めさは応えます。
死ぬべき時に死ねなかった侍の哀愁。
先に逝った仲間たちへの思い。
生き恥を引き摺る者へ容赦なく降りかかる過酷な運命。
一刀斎の迫真の昔語りに否応なく引き込まれます。

新選組三番隊長・斎藤一
もともと魅力的な素材を、浅田先生の筆力が一段階上のキャラクターに引き上げてます。
しかし基本は暴力の権化。
確乎たる思想信条もなく、ただ眼前に立ち塞がる敵を斬り倒すのみ。
例えこれからの日本に有用な人材だとしても、全く罪のない一般人だとしても、反撃能力のない弱き者だとしても、任務遂行のためには容赦なし。

前回理不尽に行使される暴力に対してあれほど嫌悪感を露わにしておきながら(真藤順丈先生の『RANK』を痛烈に批評した後に書いた感想文です 2019年06月)、今回は特にお咎めなしというこのダブルスタンダード、我ながら呆れます。
一体全体「執行官佐伯」(『RANK』の主人公)と「新選組斉藤」では何が違うのか?

、、、、、、。

ズバリ、美しさなんですよね。
人を殺しといて美しいも醜いもないんですが、生理的好き嫌いは如何ともし難く。
言うまでもありませんがこの場合の美醜とは、容姿ではなく生き様です。
そこではたと思い至るに、殺人という同じ現象で嫌悪に差がでるということは、ぶっちゃけ生き様による差別なのでは?と。
前にも書いたけど、幕末の人斬りなんて紛うことなきテロリストですから。
でも簡単にテロリストとは割り切れない、惻隠の情みたいなものが沸々と湧いてくるのも事実。
罪のない人間を自分の都合だけで容赦なく殺す、この事実に対し、実行者の境遇に鑑みて受け手側に感情の差が生じるというのはある意味非常に恐ろしいことだなと。
どんなに不幸な生い立ちであっても、理不尽に他人に危害を加えていいはずがない。

、、、そうなんです、こんなことをモヤモヤ考えながら読んでも面白さ半減だっつーのッ!
しかし、この小説読んでどうねじ曲がったらこんな感想になるんかね? 相当拗らせてます。
ヤベぇ、何かそれらしいことも書かねぇと、、、

所々に散りばめられている軍隊ウンチクが興味深い。
食事が肉ばかりで魚が恋しいとか、町中で傘が差せないとか。「へぇ~」ボタン連打。
そうですね、あとはやっぱり新選組モノは京都の黄金時代がいいです。
新時代について行けず、食いっぱぐれて乞食になるとか、西南戦争で元隊士が、政府軍と薩摩軍に別れて戦うとか読んでてもう辛過ぎます。
それにしても維新以降、元隊士たちの人生の数奇なこといったら。
改めて侍の時代の終焉って、日本史上における一大ターニングポイントだったなぁと。
物語上、明治天皇崩御して大正に改元するところから始まるんですが、平成から令和に変わる現在ともシンクロして、ひょっとしたら、これから大きく時代が変わっていこうとしている“今”に生きているのかも?って、漠然とした思いが漂いましたね。
願わくば、令和という新時代が日本国民にとって、素晴らしいものになるますように。


難語多過ぎ 手套/手袋とか繃帯/繃帯とか蹶起/決起とか 右側で良くね?
★★★☆☆

小笠原るるぶ『人生教習所』

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垣根涼介

 

キャッチーなタイトルに、この表紙の写真。くぅ~~高まる♪


「人間再生セミナー 小笠原塾」

謎の募集広告で小笠原に集まった無気力な東大生、すぐカッとなる元ヤクザ、気が弱い女性フリーライター、その他セミナー参加者たち。

小笠原の大自然の中、一癖あるカリキュラムをこなしていくうち、彼らの塞いでいた心に少しずつ変化が生じ始める。

 

基本的に何にも起きない。
殺人事件も異世界召喚も何も。
日常。
普通のことを丹念に描くだけで、こんなに読ませる小説書けるんだと感心しきり。

無気力・短気・小心と、三人の主人公たちそれぞれが、俺に似てる短所を抱えていて親近感増々。
小笠原の大自然と、そこに暮らす人々の生活に触れ、徐々に心を開いていく我らが三人組。
俺も物語の進行と共に、まるでこの「人間再生セミナー 小笠原塾」に参加しているかの様な、心地良いトリップ感に浸って読書させてもらいました。

兎に角、舞台の小笠原が魅力満点。
先ず江戸末期に捕鯨関係の米国人が住み着き、その後明治政府の政策で日本人が植民、さらに敗戦で、米軍統治後の日本領復帰とまさに激動の歴史。
この複雑な歴史を背景とした、日米文化の摩擦と融合。
そしてそれらを優しく包み込む亜熱帯の大自然
こんなトコが東京にッ!ってね。

特に注目したのが、本土から流入してくる新島民によって変容していく島の文化形態。
観光業に従事する若者たち。そのまま移住する者もあれば、一定期間出稼ぎしてまた本土に帰る者もいる。
島内住民の一定数が常に流動的に入れ替わることによって、田舎でありながら他者に過度に干渉しない都会的なコミュニティが形成されているという状況を大変興味深く読ませていただきました。
「去る者は追わず来る者は拒まず」という居心地の良さと、何故かここがホームにはなりきれないという漠然とした根無し草感。

爽やかな雰囲気の中に漂う一抹の寂しさ。
小笠原塾の参加者は勿論、読者もそのことを微妙に感じ取り、全編何とも言えない感傷に浸ることになるんじゃないでしょうか。
冒頭にも述べましたが、事件などが何にも起こってないのに、ここまで気持ちを引っ張れるんだと改めて感心。

小説だからって、杓子定規に起承転結しなくていいんだなって。
物語だからって、無理矢理面白い話にしなくってもいいんだなって。
たまにはこういう、ゆったりのんびりした作品もいいもんです。

「もう二度とここに来ることはないんだろうな」

何っつー切ねぇ台詞吐かせやがる、、、
矛盾してっけど、静かに穏やかに万感胸に迫るって感じ。


小笠原行ってみたくなります
★★★☆☆

超骨太『神の国に殉ず 小説 東条英機と米内光政』

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阿部牧郎

 

書架に鎮座まします圧倒的存在感。上下巻合わせ九百項超、俄を寄せ付けない超骨太な内容。
今まで躊躇うには充分過ぎる手強さ。
加えて、東条英機という極めてデリケートな素材。
歴史を扱った小説、特に近代史モノで、保守/リベラル問わず著者の思想信条を押し付けてくるような展開は、どんなに内容が面白かろうが正直ドッ白け。
もし、阿部先生の筆致が少しでも左右どちらかに引っ張られているならば、当ブログ初の途中棄権作品ということになってしまう。
故に、ちょっとした冒険でしたけど、そんな懸念は全く不要でした。

まさに不偏不党ッ
阿部先生、絶妙なるバランス感覚です。
思い入れや心理描写を極力排し、真実のみをひたすら淡々と綴る。
序盤南京戦の描写でほぼ確信。お陰様で終始引っ掛かることなく、冷静に読了致しました。

ただ、、、
娯楽性皆無、武骨に武骨過ぎ。
何年何月何日に誰が何をしたっつー真実羅列の連続。そう!まるで教科書みたい。
小説なんだからもう少し外連味っつーか、何っつーか。
でもなぁ~少しでもエピソードに色付けしたら、途端に変な空気になっちゃうもんなぁ~
やっぱ東条英機でエンタメ的に面白い小説ってのは、相当ハードル高いですね。

日露戦争から太平洋戦争開戦、そして敗戦まで。
東条と米内、陸海軍それぞれの視点から激動の昭和を描く。
阿部先生、左右のバランスは絶妙でしたが、東条と米内では完全に米内贔屓。
泰然自若とした米内に比べ、終始小物振りを強調される東条。
見せ場の二・二六事件東京裁判での法廷闘争も軽く流される感じ。
そもそも日露戦争の部分が不要では?
公私や平時有事問わず、二人の人生全体を均等に描写するのは、この作品の骨子である絶妙なるバランスに合致すると思うのですが、要所要所、盛り上がる場面こそもっとページ数を割いてほしいところ。
更に言わせてもらうなら、ダブル主役ではなく、東条一人をガッツリ描いたほうがもっと作品が濃厚になったのに。
事実、米内パートが少々退屈に感じました。

それにしても何と言うか、泥沼の日中戦争からヤケクソの対米開戦までのグダグダの流れ。
いやいや小説じゃなくて、実際の歴史の方ね。
大まかに既知とはいえ、改めて小説という媒体を通してみるに、猛烈な憤りを禁じ得ない。
昭和史は、あまりにもあの時ああしていれば、、、というIFが多過ぎて本当に心を掻き乱されます。
漠然と戦前は挙国一致、国民一丸となって国難に当たってたような印象を持っている方も多かろうがとんでもない。
総理大臣はコロコロ代わるし、官僚は派閥争いばっか。
マスコミは売れるためなら平気で偏向報道を垂れ流し、国民を煽り立てる。
目と耳を塞がれた国民は正しい判断が出来ず、歪な世論を形成していく。
ヤベぇ、今と似てんじゃんみたいな。

しかしまあ、どこで間違えたんでしょうね。
ちょんまげで刀差しとったら、無理矢理ペリーに開国させられて、列強の帝国主義渦巻く荒波に放り出されて。
世界に嘗められないよう、無理に無茶を重ねて急速に近代化したツケが一気に噴出したのが昭和っつー時代なわけです。
辛く暗い時代ですが、あれを通り抜けたからこそ、今の平和で豊かな日本があるわけで。
ぶっちゃけ、敗戦という問答無用の外圧がなければ、自力で軍国主義から脱却できたかどーかも疑問ですよね。
世界に取り残されず、自然と近代化するためには、そーね、、、鎖国出来ないから、、、そーなると、、、「関ヶ原」ぐらいからやり直さねぇとッ!?なんてことに。
まぁそれは冗談としても、満州事変、国際連盟脱退、三国同盟締結、そして対米開戦と。
軌道修正するポイントはそれこそいくらでもあったのに、その都度悪い方へと舵を切ってしまう我が祖国を目の当たりにして、確定した歴史的事実とはいえ、それを再確認する読書はやっぱり辛いもんです。

絶対的権威を有しながら、「君臨すれども統治せず」を頑なに遵守する昭和天皇
「和を以って貴しとなす」の弊害か、政治家が強力なリーダーシップを発揮できない土壌。
トップダウンで政策が決定出来ず、関係各所の利害調整で貴重な時間を無駄にしてしまう愚。
加熱した世論に後押しされる軍部、さらに煽り立てるマスコミ。
昭和天皇以下、国家の中枢ほぼ全員が対米開戦を必死に回避しようとしているのに、じりじりと歴史の渦に引き込まれるいく理不尽さ。
長期的戦略の欠如から情報や合理的判断を軽視し、国家の意思決定に非常に情緒的な要素が介入してくる。
そして出る杭は打たれる、同調圧力、この空気で何となく流してしまうという日本人特有の悪癖。
この歴史的国家存亡の重大局面に於いてさえ、いかんなくそれが露呈してしまうという恐ろしさ。
そしてそれが、この平成の世まで脈々と受け継がれているという不都合きわまる現実。
ここでも常々申し述べてる通り、先の大戦はの我々日本人の欠点が大いに凝縮されているのです。
ホント近代史は全国民必須科目と思うのだが、一般人には浸透しねぇんだよな。俺みたいな軍オタばっか。
ヤベぇ、あれ程主義主張の押し付けを嫌悪しておきながら説教臭ぇっつーの。
ハイじゃあ、緩い感想に移りまぁ~す。

歴史の大事件だけじゃなくプライベートも結構描写されてて、それが初見のエピソードてんこ盛りで好奇心をそそられる。
先ずは人事異動→多過ぎ。軍人ってこんなに異動あんだとビックリ。
将来を嘱望されたエリートだから、いろんな部署を経験させるっつーのもあんだろうけど。
で、行く先々で派閥争いね。未だに賊軍上がりがとか言ってんだもん(東条も米内も岩手盛岡藩の血筋)
薩長閥が牛耳る軍隊生活で、それをバネに成長する米内と性格がねじ曲がる東条(哀)

で、気付いたわけ。あれ、、、似てるなと。
君主への絶対的忠誠、非常に優秀な吏僚で戦下手、公正明大だが杓子定規過ぎて嫌われ者。
まんまじゃん。
そう、俺が大好きな石田三成にソックリ。
嗚呼、歴女の怒号が聞こえてきそうですがw
この説唱えてる人いねぇーの?凄ぇ似てると思うんですけど。
ちょっと親近感が湧いてきたとゆーか、何ちゅーか。
巷じゃA級戦犯の大ボスみたいに認知されてて、蛇蝎の如く嫌われてますけど、全く弁護の余地がない極悪人というわけではないんですよね。少なくともヒトラーとは全然違います。
東京裁判自体、戦勝国による魔女狩りみたいなもんですし。
当時の時代背景を鑑みるに時の総理とはえ、東条一人に全責任をおっ被せるのは余りに酷。
国家とマスコミに洗脳されていたほぼ全国民が、熱狂的に侵略戦争を支持したわけですから。
阿部先生も最後に書かれてましたが、国民の業を全て引き受けて刑死したと。俺も全く同意見です。
いやぁ~~もう少し光が当たってもいい人物だとは思いますハイ。
、、、ヤベえ、米内のこと全く触れてねぇじゃん。


東条の条、條じゃね?
★★★☆☆

主人公誰?の川中島『吹けよ風 呼べよ嵐』

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伊東潤

 

御存知「川中島の戦い」ですね。
キモは主人公が信玄でも謙信でもなく、北信濃の国人「須田満親」っつーところ。
っつーか、誰だよッ!?って、ウィキで補完したら、意外と大物じゃん。

川中島最大の激突である第四次をメインに、全五回の戦いをガッツリ。
何年何月何日に誰それがどこを攻めたみたいな、ひたすら歴史的事実を列記する教科書的記述が多いのが多少気になったものの、概ね楽しく拝読致しました。

兎に角、謙信が格好良いッ!あっ、この頃はまだ長尾景虎ですけども。
利の武田、義の上杉とあまりに白黒ハッキリ色分けされてて、普通だったら俺が嫌いな描写のパターンなんですけど、謙信の格好良さで全部持って行っちゃうんだもん。
武田に侵略されている北信濃の救援ですから、例え勝ったとしても領地が増えるでもなし、上杉にとっては益の少ない戦なんです。
それでも“義”によって起つっつーね。格好良えぇぇッ!!
俺もこんな風に、常に弱者に寄り添う強き男でありたいね。
まぁ、毎回無益な戦に駆り出される上杉家臣団と越後の民はたまったもんじゃねぇが。

そんな謙信に持って行かれつつも、頑張る主人公「須田満親」
真田幸綱(幸村のおじいちゃん)の調略により引き裂かれる須田一族。
まぁ~~この真田の暗躍振りがエゲツねぇエゲツねぇ。
元々北信濃の豪族だからね真田氏。地の利を生かして内部から国人衆を蚕食。
信濃の有力豪族「村上義清」に付く者と、武田に取り込まれる者とで北信濃はバラバラ。
須田家も本家と庶家で、敵味方に別れることに。
兄弟同然に育った親友でもある従兄「須田信正」も、憎しみをぶつけ合う宿敵になってしまう。
川中島は信玄と謙信の因縁の対決であるが、満親と信正にとっても宿命の決戦場となるッ!

史料の乏しい部分は、伊東先生の創作なので、当然と言えば当然なのだが相当ドラマティック。
戦国の世のならいで敵味方に別れたとはいえ、心の底から憎しみ合ってるわけじゃない。
しかし、自家が生き残る為には何としても打ち倒さなければならない不倶戴天の敵。
この矛盾した状況でこそ起こり得る数々のドラマ。
戦である以上、血を流し互いに殺し合っているというのに何だろう?この爽やかに吹き抜ける一陣の涼風のような感覚は。
懸命に闘う男の生き様は、かくも美しい。

しかし主人公補正で「須田満親」、やや上げ過ぎかな?
二十歳そこそこの若侍が謙信に寵愛され、鉄砲の有用性に逸早く気付き、極めつけは、「啄木鳥戦法」を見破るっつーね。
活躍し過ぎでしょ。
謙信が飯炊きの煙で見抜いたじゃねぇーのかよッ!みたいな。
まぁ、定説がそうってだけで、実際の歴史でも満親大活躍してたかもしんないけど。
ウィキ見るにかなりの経歴だかんね。伊東先生の創作とはいえ、ホントのところは誰にも解らんところ。
ここいらへんの歴史的に曖昧な部分で、如何にリアリティを持たせつつ遊べるか?っつーのが、歴史小説作家の腕の見せ所。
毎回伊東先生はイイトコ突いて来ます。そもそも「須田満親」って、よく見付けてきたなと。
良い素材を調達出来るのも最高のシェフの条件ですよね。
でもやっぱ、第四次で窮地に陥った満親を、謙信御自ら助けに馳せ参じる場面はやり過ぎ。
読んでて吹いちゃった「こりゃ無ぇわw」つって。バリバリ格好良いけどね。


タイトル合ってなくね?
★★★☆☆