昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

超骨太『神の国に殉ず 小説 東条英機と米内光政』

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阿部牧郎

 

書架に鎮座まします圧倒的存在感。上下巻合わせ九百項超、俄を寄せ付けない超骨太な内容。
今まで躊躇うには充分過ぎる手強さ。
加えて、東条英機という極めてデリケートな素材。
歴史を扱った小説、特に近代史モノで、保守/リベラル問わず著者の思想信条を押し付けてくるような展開は、どんなに内容が面白かろうが正直ドッ白け。
もし、阿部先生の筆致が少しでも左右どちらかに引っ張られているならば、当ブログ初の途中棄権作品ということになってしまう。
故に、ちょっとした冒険でしたけど、そんな懸念は全く不要でした。

まさに不偏不党ッ
阿部先生、絶妙なるバランス感覚です。
思い入れや心理描写を極力排し、真実のみをひたすら淡々と綴る。
序盤南京戦の描写でほぼ確信。お陰様で終始引っ掛かることなく、冷静に読了致しました。

ただ、、、
娯楽性皆無、武骨に武骨過ぎ。
何年何月何日に誰が何をしたっつー真実羅列の連続。そう!まるで教科書みたい。
小説なんだからもう少し外連味っつーか、何っつーか。
でもなぁ~少しでもエピソードに色付けしたら、途端に変な空気になっちゃうもんなぁ~
やっぱ東条英機でエンタメ的に面白い小説ってのは、相当ハードル高いですね。

日露戦争から太平洋戦争開戦、そして敗戦まで。
東条と米内、陸海軍それぞれの視点から激動の昭和を描く。
阿部先生、左右のバランスは絶妙でしたが、東条と米内では完全に米内贔屓。
泰然自若とした米内に比べ、終始小物振りを強調される東条。
見せ場の二・二六事件東京裁判での法廷闘争も軽く流される感じ。
そもそも日露戦争の部分が不要では?
公私や平時有事問わず、二人の人生全体を均等に描写するのは、この作品の骨子である絶妙なるバランスに合致すると思うのですが、要所要所、盛り上がる場面こそもっとページ数を割いてほしいところ。
更に言わせてもらうなら、ダブル主役ではなく、東条一人をガッツリ描いたほうがもっと作品が濃厚になったのに。
事実、米内パートが少々退屈に感じました。

それにしても何と言うか、泥沼の日中戦争からヤケクソの対米開戦までのグダグダの流れ。
いやいや小説じゃなくて、実際の歴史の方ね。
大まかに既知とはいえ、改めて小説という媒体を通してみるに、猛烈な憤りを禁じ得ない。
昭和史は、あまりにもあの時ああしていれば、、、というIFが多過ぎて本当に心を掻き乱されます。
漠然と戦前は挙国一致、国民一丸となって国難に当たってたような印象を持っている方も多かろうがとんでもない。
総理大臣はコロコロ代わるし、官僚は派閥争いばっか。
マスコミは売れるためなら平気で偏向報道を垂れ流し、国民を煽り立てる。
目と耳を塞がれた国民は正しい判断が出来ず、歪な世論を形成していく。
ヤベぇ、今と似てんじゃんみたいな。

しかしまあ、どこで間違えたんでしょうね。
ちょんまげで刀差しとったら、無理矢理ペリーに開国させられて、列強の帝国主義渦巻く荒波に放り出されて。
世界に嘗められないよう、無理に無茶を重ねて急速に近代化したツケが一気に噴出したのが昭和っつー時代なわけです。
辛く暗い時代ですが、あれを通り抜けたからこそ、今の平和で豊かな日本があるわけで。
ぶっちゃけ、敗戦という問答無用の外圧がなければ、自力で軍国主義から脱却できたかどーかも疑問ですよね。
世界に取り残されず、自然と近代化するためには、そーね、、、鎖国出来ないから、、、そーなると、、、「関ヶ原」ぐらいからやり直さねぇとッ!?なんてことに。
まぁそれは冗談としても、満州事変、国際連盟脱退、三国同盟締結、そして対米開戦と。
軌道修正するポイントはそれこそいくらでもあったのに、その都度悪い方へと舵を切ってしまう我が祖国を目の当たりにして、確定した歴史的事実とはいえ、それを再確認する読書はやっぱり辛いもんです。

絶対的権威を有しながら、「君臨すれども統治せず」を頑なに遵守する昭和天皇
「和を以って貴しとなす」の弊害か、政治家が強力なリーダーシップを発揮できない土壌。
トップダウンで政策が決定出来ず、関係各所の利害調整で貴重な時間を無駄にしてしまう愚。
加熱した世論に後押しされる軍部、さらに煽り立てるマスコミ。
昭和天皇以下、国家の中枢ほぼ全員が対米開戦を必死に回避しようとしているのに、じりじりと歴史の渦に引き込まれるいく理不尽さ。
長期的戦略の欠如から情報や合理的判断を軽視し、国家の意思決定に非常に情緒的な要素が介入してくる。
そして出る杭は打たれる、同調圧力、この空気で何となく流してしまうという日本人特有の悪癖。
この歴史的国家存亡の重大局面に於いてさえ、いかんなくそれが露呈してしまうという恐ろしさ。
そしてそれが、この平成の世まで脈々と受け継がれているという不都合きわまる現実。
ここでも常々申し述べてる通り、先の大戦はの我々日本人の欠点が大いに凝縮されているのです。
ホント近代史は全国民必須科目と思うのだが、一般人には浸透しねぇんだよな。俺みたいな軍オタばっか。
ヤベぇ、あれ程主義主張の押し付けを嫌悪しておきながら説教臭ぇっつーの。
ハイじゃあ、緩い感想に移りまぁ~す。

歴史の大事件だけじゃなくプライベートも結構描写されてて、それが初見のエピソードてんこ盛りで好奇心をそそられる。
先ずは人事異動→多過ぎ。軍人ってこんなに異動あんだとビックリ。
将来を嘱望されたエリートだから、いろんな部署を経験させるっつーのもあんだろうけど。
で、行く先々で派閥争いね。未だに賊軍上がりがとか言ってんだもん(東条も米内も岩手盛岡藩の血筋)
薩長閥が牛耳る軍隊生活で、それをバネに成長する米内と性格がねじ曲がる東条(哀)

で、気付いたわけ。あれ、、、似てるなと。
君主への絶対的忠誠、非常に優秀な吏僚で戦下手、公正明大だが杓子定規過ぎて嫌われ者。
まんまじゃん。
そう、俺が大好きな石田三成にソックリ。
嗚呼、歴女の怒号が聞こえてきそうですがw
この説唱えてる人いねぇーの?凄ぇ似てると思うんですけど。
ちょっと親近感が湧いてきたとゆーか、何ちゅーか。
巷じゃA級戦犯の大ボスみたいに認知されてて、蛇蝎の如く嫌われてますけど、全く弁護の余地がない極悪人というわけではないんですよね。少なくともヒトラーとは全然違います。
東京裁判自体、戦勝国による魔女狩りみたいなもんですし。
当時の時代背景を鑑みるに時の総理とはえ、東条一人に全責任をおっ被せるのは余りに酷。
国家とマスコミに洗脳されていたほぼ全国民が、熱狂的に侵略戦争を支持したわけですから。
阿部先生も最後に書かれてましたが、国民の業を全て引き受けて刑死したと。俺も全く同意見です。
いやぁ~~もう少し光が当たってもいい人物だとは思いますハイ。
、、、ヤベえ、米内のこと全く触れてねぇじゃん。


東条の条、條じゃね?
★★★☆☆