昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

最高のカタルシス『鋼鉄の叫び』

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鈴木光司

 

「リング」シリーズ読んで以来、実に十数年振りッの鈴木先生と再戦。
こうやって、感想文綴るようになる遥か昔、恐らく人生で初めて読んだ小説ではなかったろうか。
いやぁ~お久し振りです。

 

テレビ局のプロデューサー雪島忠信は、特攻隊を題材に番組を企画する。

一方私生活では、家庭ある女性との自由気ままな恋愛を楽しんでいた。

特攻隊の任務と不倫の精算、何の関係もない二つの事柄が五十年の歳月を越えて結びつくとき、二人の男が人生を決断を迫られる。

 

勿論小説なんで。フィクションなんで。作家が自由に創れる物語ですから。
それを差し引いてもなお、壮大な話だったわ。

悩みに悩み抜いた後の決断によって、如何に人生が切り拓かれていくかっつーね。
不倫の清算と特攻からの生還。
まあね、現代と戦時下で、時代背景の差は著しいものの、どちらも人生を左右する決断であることには変わらない。
特攻隊は誰が書こうが、どうやってもドラマティックな題材ですから、戦中パートの読書牽引力は申し分無し。
翻って、不倫を軸に据えた現代パートは、読んでて退屈かなと思いきや、とんでもない。
より自分の日常に近い分、主人公の決断の重みがグイグイ伝わってくる。
まあ、不倫の経験は無ぇけど、流石に特攻よりは実感あんでしょ。

愛する人と添い遂げることは、愛する人が最も大切にしている家庭を壊すことになる。
たとえ仕事を失っても、他人から憎まれようとも、愛に殉じる覚悟はあるのか。
生きたい。しかし仲間や部下が次々と戦死する中、自分だけおめおめと生き残れるのか。
特攻で愛する祖国を守れるのならば、喜んで死ぬ覚悟だった。しかし、生きたい。
現代と戦時下が複雑に絡み合いながら、二人の男が究極の決断を迫られる。

現実から目を背けず、自らが受ける傷を厭わず、熟慮を重ねた末、下す決断の何と尊いことか。
そして、決断しなければならない時にそこから逃げ、問題を先送りにすることが如何に状況を悪化させるか。
憎悪をぶつけてくる相手に誠心誠意向かい合い、一番大切なモノの為に、今出来る限りのことをやる。

いやいや耳触りの良い理想論ですよ、俺も読んでてムズムズしたもん。
でもやっぱ真理だと思うし、自分の人生でも実践出来たら素晴らしいなと思います。

最後、戦中パートと現代パートが一本の線でピーーンと繋がるんですが。
これはね、もうね、よっぽど鈍い読者じゃない限り、中盤辺りで何となく当たりをつけるとは思います。
それでも、何となく予想してた結末がキャラの台詞となって、作中に文章として確定しているのを読んだ瞬間ッ←コレ、このカタルシスね。やっぱりそうだったかッ!っつー気持ちよさ。
そして件の決断の尊さと、これから始まるであろう幸せの連鎖に胸を弾ませつつ、気分爽快に読了。
いいんじゃない?こーゆーのもたまには。
でもやっぱ白過ぎると、毒気を欲する天の邪鬼な俺w

一つケチを付けるならば、タイトル。
「鋼鉄の叫び」って、全然ピーンと来ないっつーか、内容と合ってなくね?
もっとこう、しっくりくる題名あると思うんだが、、、


峰岸中尉の新作希望
★★★☆☆