昭和の重力に魂を引かれた漢

小説の感想文、たまぁ~~に雑記

男で育児経験がない俺でも、かなり応えました『八日目の蝉』

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角田光代

 

角田先生には、前回の対戦で打ちのめされたんで。

今回代表作いかせて頂きました。

ryodanchoo.hatenablog.com

愛人宅に侵入し、赤ん坊を誘拐してしまった野々宮希和子。

全国を逃亡しながら、自分の娘のように愛情を注ぎ育てる希和子だったが、、、

偽りの親子関係を通して描かれる真実の家族愛。

読中、読了後、そして今も。
様々な感想っつーか、思いが沸々と心の底から湧き上がってくるが、的確に言語化出来ん。
何っつーの?人間の素晴らしさと愚かさ、強さと弱さみたいなモンが、三百項にギュッと凝縮されてます。

前半は誘拐犯「野々宮希和子」の逃亡劇。
次々と主人公の境遇が変化する逃亡モノは、純粋にエンタメとして面白い。
それプラス、血の繋がってない誘拐した子供に対する愛情が丹念に描かれる。
赤ん坊は可愛いだけの天使ではない。
空気も読まず泣き叫び、糞も垂らしゃ熱も出す。親という存在に常に迷惑を掛け続ける生身の人間、それが赤ん坊なのだ。
しかしこの過程を二人で乗り越え、生活を積み重ねていくにしたがい、希和子は犯罪者から保護者へ、そして真の母へと成長していくことになる。
ここいら辺、男の俺でもかなりグイグイ来たから、読者が女性なら言わずもがな。育児経験があれば尚更でしょう。
しかしどんなに愛情を育もうと、現状が幸せであろうと、出発点が誘拐という許し難い犯罪であることは動かない。
不倫の末妊娠、堕胎後棄てられるという希和子の受けた仕打ちを考慮すれば、充分情状酌量の余地があるとはいえ、それでもやはり幼子を連れ去るというのは許し難い行為。
コレ、「同情されるべき悪」っつーこの微妙な匙加減。
極悪非道でもなければ聖人君主でもない。
自ら弱さ故、過ちを犯した人間。

程度の差こそあれ、皆そーでしょ。
あらゆる煩悩に悩み苦しみ、葛藤し続けることこそ人生であり人間。
法という一線を越えることは稀であっても、何の不安も不満も無い日常ということはありえないのだから。
逆に言うならば、深く信じ愛していた人間から手酷く裏切られて、相手を怨むこともなく、自らを嘲ることもなく、すんなり許せるような者を人と呼べるのか。
それは最早悟りを開いた仏か、全知全能の神か、さもなくば感情がブッ壊れたサイコパスでしょ。
そんなキャラでは琴線に触れる小説の主人公には成り得ないし、俺も興味はない。

弱さ故の過ちと、それを乗り越えようとする葛藤があるからこそ、読者は希和子に感情移入し、同情し、幸せになってほしいと願い読み進むのだ。
そして後半まさに自分の過去を乗り越えようとする強さが描かれる。
二人目の主人公「秋山恵理菜」、幼少時希和子に誘拐されたことによってその後の人生を大いに狂わされた本件最大の被害者である。
幼少期に実親と隔離されたことで家族とも馴染めず、その後の過熱した報道によって平穏な日常も失ってしまう。

正直前半の逃亡劇がスリリングで面白かったんで、主役が恵理菜に変わった際、読書のテンションが下がったのは否めない。
だが、恵理菜が自らの過去と向き合い少しずつ克服していく様は、中々に読み応えがあった。
ここ迄壮絶な過去があったわけじゃないけど、俺ん家も所謂「幸せ家族♪」みたいな感じじゃなかったんで。う~ん、何か重ねて読んでるトコあったかも。

いやね、うん、言わせてもらえば、悪いヤツは一人も出てねぇと思うのよ、この小説に。
女性読者は猛反発だろうが、あの父親と塾の講師にしたって根っからの悪党ではない。ええクズではありますクズではね。
同じ弱さ故の過ちであっても、刑法に触れ、より重罪であるはずの希和子の方が遥かに清々しいというのも面白いところ。
希和子が匿われる新興宗教団体にしても、悪とは言い切れん。只世間の常識とはズレているということ。

何か最近さぁ~「我こそは絶対正義也」みたいな人多いじゃん。
多様な価値観を謳ってる割に、自分と違う意見を絶対許さないっつーか。
俺も多分にそーゆートコあっから注意しないと、、、とかまで感想が飛躍したり。
まぁ、冒頭述べた通り様々な思いが交錯して、やっぱ、上手く感想として纏められませんでしたとさ。

あッ、一つ確固たる意見具申あったわ。
本作のクズキャラ二名を通して、広く世間に訴えたい。
百歩譲ってたまたま初回、勢いにかまけてというならまだ、まだ解るけれども。
逢う度逢う度毎回でしょう?何で平気でこんな無責任なこと出来んの??
読中イライラしっ放しだったんだけど、今ここでハッキリと申し述べさせて頂きます。

「世の男性諸氏、婚前交渉ではきちんと避妊しなさい」

以上ですキャップ。


映画も良さそう。
★★★☆☆