「魂の抉り屋」葉真中先生が描く介護の実態『ロスト・ケア』
葉真中顕著
今最もお気に入りの作家さん葉真中先生ご登場、今回で三作目かな。
過去二作でも相当にエグられたんで、
ryodanchoo.hatenablog.com今回も覚悟の読書です。
何せ葉真中作品は、読後のダメージの引っ張り具合が半端ない。
「あ~~面白かった」で終わることなんかありえません。一週間はモヤモヤした思いを引き摺らなきゃならい。
しかも今作のテーマは「介護」、そのヘビーさは容易に窺い知れるところ。
書架で見かけては避け続けていたのですが、遂に拝読の運びに。
重い。
予想していたとはいえ、本当に重い。
のっけから凄まじい介護の実態が描写されていて、読み進められないほど。
痴呆の母を介護する登場人物より先に、読者の俺の方が参ってしまいそう。
いくら血の繋がった親とはいえ、下の世話まで面倒みきれますか?
懸命に尽くしても痴呆が進んだ母は、感謝の言葉一つかけてくれない。
漏れ出す糞尿、漂う悪臭、飛び交う罵詈雑言、実の母に憎悪を抱いてしまうことに対する自責の念。
そして支援というにはあまりに乏しい行政の福祉。
無理。
たった数行読んだだけでも、とてもじゃないが耐えられない。
これが、この地獄が一日二十四時間、一年三百六十五日続くとしたら。
介護の問題は決して人ごとではありません。
急速に進む少子高齢化は、日本が抱える喫緊の課題なのです。
家族単位で背負い込むにはあまりに過酷。何とか社会全体で負荷を分散するシステムを構築しなければならないしその為に、国民の理解のもと行政にも積極的に動いていただきたい。
理想論として福祉関連の充実は勿論ですが、現実問題としての安楽死・尊厳死の議論も避けて通れない段階なのでは。
命に優先順位を付けるのか?という生命倫理の問題も絡んでくるでしょう、国論を二分する喧々囂々の論争になるとしても、議論から、今ここに存在する問題から逃げるべきじゃない。
生命倫理という非常に微妙な要素を楽々と飛び越え、まさにこの問題を小説というエンターテインメント上で堂々と問いかける筆者の力量に脱帽。
大上段から正論を振りかざす者、救いのために悪に手を染める者、正直に欲望に走る者、無力な傍観者。
登場人物それぞれの対比も見事。
そうなんですよ、誰が正しいとか間違ってるとかそういう問題じゃないんです。
理想か現実か、攻めるのか守るのか、今、ここで問題が起こっている以上、我々は何かしらの決断をしなけらばならない。
事ここに至って尚、何ら決断することなく問題を先送りすることは罪です。
「今一番苦しんでいる人たちの身になって考える」
ってのが俺が現時点で辿り着いた答えです。
勿論これが正解ってわけじゃない。
皆で考えていかなければならない問題なのです。
ミステリー部分がヌルい。
ハイッ、小難しい話は終わりましたんで、こっからはライトな感想ですよ~
そうなんです、上述のとおり社会派で押せるだけの十分な重厚さを備えてるのに、取って付けたようにミステリー要素ねじ込んでくんだもん。
確かに最後の大ドンデンは意表をつかれましたけど。
でもやっぱ、メインテーマの重厚さに比べて蛇足感は否めません。
まあ、早々にミステリー展開になって正直助かったちゃあ助かったんですけど。
あのまま壮絶な介護シーンが続いてたら、耐えきれず離脱してましたから。
この感想自体が蛇足かw
じゃあ、最後に悪役が名言吐いてたのが心に刺さりましたのでそれをば。
p178
「特に恥と不安は最も強く人を動かす。」
う~~ん、真理だわ。
社会派筆頭
★★★☆☆